東京学芸大学の研究グループは、分子科学研究所や東北大学、長崎大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)に適切な化学修飾を行い、これまで以上の長波長域に近赤外発光を発現させることに成功した。
東京学芸大学の研究グループは2023年8月、分子科学研究所や東北大学、長崎大学と共同で、カーボンナノチューブ(CNT)に適切な化学修飾を行い、これまで以上の長波長域に近赤外発光を発現させることに成功したと発表した。バイオイメージングや光通信、光量子デバイスなどの近赤外光源としての活用が期待されるとする。
研究グループは今回、CNTのフルオロアルキル化反応を行った。アルキル基の水素原子をフッ素原子に置き換えていくことで、近赤外発光の波長が長波長側にシフトし、生じる発光の選択性が著しく向上することが分かった。理論計算によって、水素原子からフッ素原子に置き換えると、ラジカル中間体のスピン密度が大きく変化することを確認した。
これらのことから、「フッ素原子に置き換える水素原子の位置や数によって反応性が変化する」ことや「その結果として化学修飾によって生じる発光の選択性や波長が制御できる」ことが分かった。
次に、分子内に反応点を2つ配した反応試薬を考案して、フルオロアルキル化反応を行い、速度論的支配による付加様式の制御を試した。この結果、これまでで最も長波長側に近赤外発光が発現した。理論計算により、フルオロアルキル化されたCNTの安定性や電子構造を評価した。「速度論支配によって付加様式が制御されたこと」と「フルオロアルキル基の電子的効果によってCNTの電子状態が局所的に大きく変化したこと」が相乗的に機能したとみている。
研究グループは、化学修飾によって発光波長を制御したCNTについて、アガロースゲルを用いたゲルクロマトグラフィーで分離することにも成功した。光学分割も可能で、「右」あるいは「左」に巻いた高純度のCNT付加体を得ている。開発した発光波長の制御技術を用い、CNTの構造を使い分けて化学修飾すれば、励起波長と発光波長の選択肢が広がることも実証した。
4)、(6,5)、(8,3)のカイラル指数のCNT付加体,下段より順にCNT、ブロモアルカン、ヨードフルオロアルカン、ジブロモアルカンおよび、ジヨードフルオロアルカンで化学修飾したCNTより生じる近赤外発光スペクトル。左側より順に(6,4)、(6,5)、(8,3)のカイラル指数のCNT付加体[クリックで拡大] 出所:東京学芸大学他今回の研究は、東京学芸大学の前田優教授と山田道夫准教授の研究グループが、分子科学研究所の江原正博教授、Zhao Pei助教、東北大学の笠井均教授、三ツ石方也教授および、長崎大学のAnh T. N. Dao准教授らと共同で行った。
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