東北大学と東京大学、高エネルギー加速器研究機構の研究グループは、鉄(Fe)とスズ(Sn)のアモルファス薄膜でも、「バンドトポロジー」の概念が有効であることを解明した。
東北大学金属材料研究所の藤原宏平准教授と塚崎敦教授、東京大学大学院工学系研究科の加藤康之講師と求幸年教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の阿部仁准教授らによる研究グループは2023年6月、鉄(Fe)とスズ(Sn)のアモルファス薄膜でも、「バンドトポロジー」の概念が有効であることを解明したと発表した。
研究グループは、アモルファス(非晶質)に近いFe-Sn強磁性薄膜で、トポロジカル半金属「カゴメ格子結晶Fe3Sn2」と同等の大きな「異常ホール効果」が発生することを、2019年に発見した。今回は、固体中における電子の運動を特徴づける、バンド構造の幾何学的性質であるバンドトポロジーについて、アモルファス状態での効果を評価することにした。
実験では、ガラス基板上に室温スパッタリング蒸着法を用い、均質のFe-Snアモルファス薄膜を作製した。これを用い、ほぼアモルファス領域のみで構成されるさまざまな組成の試料を評価した。
異常ホール効果と異常ネルンスト効果の測定では、カゴメ格子結晶のFe3Sn2やFe3Snにも匹敵する高い値を示した。特に、異常ネルンスト係数は2.0μV/ケルビンとなり、これまでのトポロジカル物質群の中では最も高いレベルの値だという。
さらに研究グループは、放射光EXAFS(広域X線吸収微細構造)を測定した。この結果、アモルファス状態でもごく短いスケールでは、カゴメ格子結晶の構造的特徴をもつ「短距離秩序」が存在することを突き止めた。
また、実験により求めた構造パラメーターに対応した理論モデル「フラグメントモデル」を新たに開発した。これを用いてシミュレーションを行い、Fe-Snアモルファス薄膜の大きな異常ホール効果および異常ネルンスト効果が、カゴメ格子結晶で報告されている効果と、共通したメカニズムで理解できることを明らかにした。
アモルファス薄膜は、室温スパッタリング蒸着法により、さまざまな基材上に広い面積で成膜ができる。ポリマー基板上へも低温で形成でき、フレキシブル素子への応用も可能となる。
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