名古屋大学の研究グループは新しいハイエントロピー型アンチモン化合物の合成に成功し、この物質が超伝導体であることを確認した。元素の構成比率を変えれば、超伝導性能をさらに向上できる可能性があるという。
名古屋大学大学院工学研究科の平井大悟郎准教授、植松直斗大学院生、片山尚幸准教授、竹中康司教授および、同大学未来材料・システム研究所の齋藤晃教授らによる研究グループは2023年8月、新しいハイエントロピー型アンチモン化合物「(RuRhPdIr)1-xPtxSb」の合成に成功し、この物質が超伝導体であることを確認したと発表した。
ハイエントロピー物質(化合物)は、5種類以上の元素が均等に近い比率で混ざりあった物質。高い機械的特性や耐腐食性を有するため、高機能性材料として注目されている。特に、アンチモンが属する15族元素の金属化合物は、高温超伝導や熱電変換の材料として開発が進む。
研究グループは今回、ハイエントロピー型アンチモン化合物の合成に取り組んだ。金属アンチモン化合物の「RuSb」と「RhSb」は結晶構造がMnP型。これに対し「PdSb」や「IrSb」「PtSb」の結晶構造はNiAs型である。このため、通常の方法で(RuRhPdIr)1-xPtxSbを合成すると、物質の構造が異なるため分離し、均一な物質はできないという。
そこで研究グループは、高温で均一化し急冷する方法を用い合成した。この結果、全ての金属元素が均一に混じったNiAs型構造の(RuRhPdIr)1-xPtxSbを合成することに成功した。温度が高いほどエントロピー効果が大きくなり、安定した(RuRhPdIr)1-xPtxSbが得られるという。
合成した(RuRhPdIr)1-xPtxSbを、走査型透過電子顕微鏡で観察した。この結果、原子スケールで元素が規則正しく並び、きれいな結晶構造が形成されていることを確認した。しかも、含まれている金属元素は、全て均一に分散していることも分かった。
合成した物質の電気伝導を測定したところ、温度に関係なく電気伝導は一定であった。さらに、2.15K(−271℃)以下の低温環境では、電気抵抗が「ゼロ」となる超伝導状態となった。構成する元素の比率を変えれば、超伝導性能をさらに向上できる可能性があるという。
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