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早稲田大学ら、ステップアンバンチング現象を発見SiCウエハー表面の平たん化に貢献

早稲田大学らの研究グループは、SiC(炭化ケイ素)ウエハー表面を原子レベルで平たん化する技術に応用できる「ステップアンバンチング現象」を発見した。プロセスは比較的シンプルで、加工によるダメージ層もないという。

» 2023年07月24日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

化学機械研磨を含むプロセスが不要で、コストと時間を大幅に削減

 早稲田大学らの研究グループは2023年7月、SiC(炭化ケイ素)ウエハー表面を原子レベルで平たん化する技術に応用できる「ステップアンバンチング現象」を発見したと発表した。プロセスは比較的シンプルで、加工によるダメージ層もないという。

 パワーデバイスの材料としてSiCが注目されている。SiCパワーデバイスを採用することで、応用機器の小型化や省電力化が可能となるからだ。こうした中で、SiCパワーデバイスの特性をさらに向上させる方法の一つとして、簡単なプロセスを用いウエハー表面を原子レベルで平たん化する技術の研究が進んでいる。

 現在は、SiCウエハー表面を平たん化するプロセスとして、「化学機械研磨(CMP)」や「水素エッチング」といった方法が用いられている。ただ、これらの方法には課題もあった。CMPでは、研磨痕を除去することで、ステップと呼ばれる高さ0.25nmの段差のみにできるが、表面近傍には加工によるダメージ層が残るといわれている。

 一方、水素エッチングは、水素雰囲気中で高温加熱することによって、研磨痕や加工ダメージ層を除去できるものの、高温処理によってステップが高くなる「ステップバンチング現象」が生じるという。このため、ステップの高さが5〜10nm以上となり、表面が少し荒くなる。ステップバンチング現象は、「ミニマムステップバンチング(MSB)」と、その後に生じる「ラージステップバンチング(LSB)」の2段階に分けられるという。これまではこうした現象が不可逆的だと考えられていた。

 研究グループは今回、ステップが5〜10nmの高さになった後でも、特定の条件下では1〜1.5nmの高さに戻るという現象を発見し、「ステップアンバンチング現象」と名付けた。SiC熱分解グラフェンの研究過程で、SiC表面形態を制御している時に偶然、この現象を発見したという。

SiCウエハー表面のステップアンバンチング現象 出所:早稲田大学 SiCウエハー表面のステップアンバンチング現象[クリックで拡大] 出所:早稲田大学
SiC表面の原子間力顕微鏡像。左から「機械研磨後」「CMP後」「1600℃での水素エッチング後」[クリックで拡大] 出所:早稲田大学

 実験では、4%程度の水素を含むアルゴンガス(Ar/4%H2)雰囲気中でSiCを加熱した。そうすると、1600℃でLSBが生じた。これを1400℃で保持したところ、高さ5〜10nmあったステップが、高さ1〜1.5nmのステップへと変化していった。つまり、特定の雰囲気ではLSBからMSBへと可逆現象が生じることを確認した。ちなみに、水素を含まないアルゴンガス雰囲気中では、ステップアンバンチング現象は起こらなかったという。

Ar/4%H2雰囲気中で起こるステップアンバンチング現象 Ar/4%H2雰囲気中で起こるステップアンバンチング現象。上段左から「1600℃で10分加熱」「その後1400℃で10分保持」「20分保持」「60分保持」した試料の表面形態。下段はそれらの変化を模式した図[クリックで拡大] 出所:早稲田大学

 今回はSiCのみを対象としたが、窒化ガリウム(GaN)やヒ化ガリウム(GaAs)なども結晶構造が類似しており、ステップアンバンチング現象を起こす可能性があるとみている。発見した現象を応用すれば、半導体製造工程で化学機械研磨を含むプロセスを省くことができるため、この工程に要していたコストや時間を大幅に削減できる可能性がある。

 今回の研究は、早稲田大学理工学術院の乗松航教授(名古屋大学客員教授)らによる研究グループと、名古屋大学博士後期課程学生の榊原涼太郎氏、中国内モンゴル民族大学の包建峰講師、日本原子力研究開発機構の寺澤知潮研究員、名古屋大学未来材料システム研究所の楠美智子名誉教授らが共同で行った。

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