今回は、これからの光インターコネクトに求められる指標について解説する。
AI/ML/HPC(人工知能/Machine Learning/High Performance Computing)の新しい潮流を推進するComposable Disaggregated Systemの実現に光技術の寄与が期待されている。前回の「CXL/UCIeから考える光インターコネクト技術」で述べた、Compute Express Link(CXL)やそれを支えるUniversal Chiplet Interface Express(UCIe)といった標準化に適した光インターコネクトが期待されている。それは小型・高集積、低消費電力、低遅延などが要求されるが、最近はインターコネクト固有の指標で評価されるようになっている。
今回は、光インターコネクトの重要な指標に関して考察してみたい。
以前に述べたように、光インターコネクトは新分野というわけではない。1990年代には、Parallel(並列)光伝送の研究開発が盛り上がった。世界中のさまざまな機関が、12チャンネル(アレイ)モジュールに関する研究成果や製品を発表した。
ところが2000年ごろ、10Gbit/s EthernetでParallelからSerial(直列)へ振り子が振られた。Serializer/De-serializer(SERDES)がASICに内蔵され、ICの微細化とPCB(プリント基板)の高周波低損失化によるSERDESの高速化がそれを支えてきた。
2010年にはそれに加え、Serial信号を波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)することでファイバー当たりの伝送容量を拡大する方式が短距離でも採用された。テレコムのDWDM(Dense WDM)方式に対し、温度制御を必要としないCWDM-4(4-ch Coase WDM)方式により、低コストを達成した。また、100m程度ではVCSEL/MMF(Vertical Cavity Surface Emitting Laser/Multi-Mode Fiber)の空間多重SDM-4(4-ch Space Division Multiplexing)が採用された。
そして今、システムの要求は4-chから16-ch以上の多チャンネル化(Large scale parallel)に向かっている。多チャンネルが必要になってきたのは、桁違いの多ポートネットワーク接続(High Radix)と高速大容量接続の要求が出てきたからだ。次世代のデータセンターでは、膨大なデータアクセスの実現が必須だからである。
多ポート化に関しては、例えば最新の51.2TのスイッチICを使用すれば100Gbit/sで512のNodeをつなぐ交換ネットワーク(Radix 512)が可能になる。現状のFront-Panel Pluggable Transceiverを用いたRadix 32から16倍ものポート数を持つネットワークスイッチが可能となる。High Radix Switchを用いればOne Hop(1つのスイッチIC経由)により、低遅延(Low Latency)のネットワークが実現できる。ただし、多ポートが必要な大規模システムではクロックの同期に関して工夫が必要だと考えている。
高速大容量の接続に関しては、TB/s(8Tbit/s)級の太いパイプも可能だ。GPU間や、CPU/GPU間を接続するNVIDIAの技術「NVLink」は、2本の100Gbit/sの電気差動信号をSub-linkと呼び、双方向Sub-LinkでLinkを構成する。このLinkを18本束ね、合計100Gbit/sを72(4×18)本使用して、bi-sectionで900GB/sを達成している。
昨年(2022年)公開されたPCIe Gen 6.0では、全二重64Gbit/s × 16 =128GB/s、bi-section換算では256GB/sになる。Lane数は4倍の64に拡張可能であり、さらに、速度が2倍になるPCIe Gen 7.0の標準化が現在進行中である。
高速大容量を実現してきた光技術を用いれば、bi-sectionで2TB/s相当(全二重で1TB/s)も将来可能になると考えている。波長多重(WDM)や空間多重(SDM)といったParallel光伝送に向いた多重化技術が必要になるかもしれない。
さて、このようなParallel伝送を基本とする光インターコネクトにおいては、光技術にとって新しい指標が示されている。本連載の第20回「コロナ下の研究停滞がようやく始動、光技術の新潮流が見えてきた」でも示した、新しいFigure of Merit(FOM)だ。
Gbit/s/mmをpJ/bitで割った指標で、2019年に米DARPA(国防高等研究計画局)のG. Keelerにより示され、学会の発表などでも多くの人が引用している。図1にそれを示す。横軸は距離で、パッケージ内(In-package)、パッケージ間(On-Board)とボード間(Off-Board)に分けている。縦軸は指標(FOM)で、緑線が電気、青線が現行の光技術を示す。これによれば、Disaggregated Compute Systemで主要となるOff-Board領域の1mから数十メートルにギャップがあり、このソリューションが求められている。さらに、将来はOn-Board 領域のブレークスルーを期待されている。図1でいえば、ピンクのラインあるいはその上を実現するということだ。
次ページから、この指標に沿って目指すべき光インターコネクトの解決すべき課題を考察する。
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