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» 2023年11月29日 11時30分 公開

「S9」のベースは「A16 Bionic」!? Appleの自在過ぎるスケーラブル戦略この10年で起こったこと、次の10年で起こること(78)(1/4 ページ)

Appleのプロセッサ開発力は、スピードを含め確実に上がっている。さらにAppleは、コア数を自由自在に増減し、ローエンドからスーパーハイエンドまでのプロセッサファミリーをそろえる「スケーラブル戦略」を加速している。発売されたばかりの「Apple Watch Series 9」を分解すると、それがよく分かる。

「M2」「M3」が同時に出そろったAppleのプロセッサ

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 2023年のAppleは、かつてないペースで新製品の発表を行っている。2023年2月3日にはプロセッサ「M2 Pro」「M2 Max」を搭載した「Mac mini」「MacBook Pro」を発売した。M2ファミリーのハイ/ミドル/ローのうち、ローに相当する「M2」は2022年6月に発売されている。おおよそ8カ月後の2023年2月にハイとミドルをラインアップに追加した。

 2023年6月13日にはスーパーハイのプロセッサ「M2 Ultra」(M2 Maxを2個組み合わせたもの)を採用した「Mac Pro」と「Mac Studio」の販売を開始。2023年前半の時点で、M2シリーズのスーパーハイとハイ/ミドルが出そろったわけだ。

 2023年9月22日には、TSMCの3nm世代で製造される「A17 Pro」プロセッサを搭載した「iPhone 15 Pro」、大幅に性能を向上させた「S9」プロセッサを搭載した「Apple Watch Series 9」、USB-C端子に切り替えた「Air Pod Pro 2」が発売されている。さらに、2023年11月7日には、TSMCの3nmで製造される新プロセッサ「M3 Max/M3 Pro/M3」のハイ/ミドル/ローを一気にラインアップに加えたMacBook Proが発売されたばかりだ。

 2023年前半にM2シリーズが完結したにもかかわらず、2023年後半にはM3が同時に出そろった。Appleの開発力は、開発のスピードも含め従来以上に高まっていることは間違いない。M1は2020年11月に発表され、M1 ProとM1 Maxが発表されたのは2021年10月。つまり、完結には11カ月かかっている。M2は2022年6月、M2 Maxは2023年2月で8カ月に短縮。M3に至っては、M3 Maxと同時発売なので、空白期間はゼロという時差のないものになっている。

コア数を“コピペ”する「スケーラブルデザイン」

 今後、多くの半導体メーカーは、コア数を“コピペ”して増減させるスケーラブルデザインによって、開発時間をより短縮し、スーパーハイ/ハイ/ミドル/ローを瞬時に作り分け、ラインアップを広げてくるものと思われる。その一端として、スケーラブルデザインで構成されるAppleの2製品を取り上げたい。

 図1は、2023年9月22日に発売されたApple Watch Series 9を分解している様子である。2015年に初代が発売されたApple Watchの第9世代となるが、内部にはひっそりとスケーラブルデザインが潜んでいる。

 ディスプレイを取り外し、ディスプレイ直下の電池、TAPTICを取り外すと、S9(「S9 SiP(System In Package))が現れる。ディスプレイ裏にも多くの半導体チップ(図1右上のように異形パッケージを採用)が搭載されている。タッチコントローラーや環境光センサー、ディスプレイ電源、ディスプレイドライバーなどだ。

図1 2023年9月発売の「Apple Watch Series 9」[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 Appleは多くのチップをそのまま実装するのではなく、機能シリコンに受動素子を含めたモジュールとして採用するケースが多い。コンデンサーなどをパッケージモジュール内に収めることで製品レベルでの実装を省略でき、モジュール内に受動素子を入れることで信頼性も高まる(はんだ剥がれなどのポテンシャルが減る)からだ。モジュール化することで、外部からの応力にも強くなる。Apple製品の多くのパッケージは、矩形(くけい)ではなく角が丸くなっているものが多い(特にWatchやAir Pod内)。

 図2は、Apple Watch Series 9の「頭脳」と「心臓部」である。左上がS9 SiP、左下が生体センサーである。生体センサーは各種LEDとフォトダイオードがびっしりと並べられている。LEDの詳細はテカナリエレポートにSEM画像を掲載しているのでぜひご覧いただきたい。

図2 Apple Watch Series 9のSiPとセンサー[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 プロセッサは、凸凹した異形パッケージのS9の内部に収まっている。図2中央はAppleマークの入った放熱シートを取り外したS9の様子で、右上はS9パッケージの裏面の様子である。S9全体はシルバーのモールドで覆われていて、内部を見ることはできない。

 S9の裏面は端子となっており、ディスプレイ、生体センサー、マイクロフォン、スピーカー、アンテナ、電池、TAPTICにつながっている。さらに3つのパッケージチップが並んでいる。第2世代のチップとなったUltra Widebandチップ「UWB2」、6軸の加速度角速度モーションセンサー、通信用パワーアンプモジュールである。裏面には端子があるので過去のApple Watchでもせいぜい4チップ程度しか搭載されていない。おおよそ500円玉サイズのSiPなので、常に高度な実装が成されている。

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