石英やシリコンパーツなどの半導体等装置関連事業と、サーモモジュールなどの電子デバイス事業を展開するフェローテックホールディングス。2022年に打ち出した「日本回帰」と「グローバル展開強化」の戦略に沿って、日本やマレーシアを中心に積極的な投資を続けてきた。2024年には、これらの投資の成果として複数の拠点が操業を開始する。生成AI(人工知能)で生まれた新たな需要も追い風に、さらなる成長拡大を狙う。フェローテックホールディングス代表取締役社長兼グループCEO(最高経営責任者)の賀賢漢氏に事業戦略を聞いた。
――2023年を振り返っていかがですか。
賀賢漢氏 半導体の市況は2022年後半から大きく変わり、これまでの半導体不足から、在庫積み増しによる調整局面へと入った。ただし、これは半導体市場特有の景気変動、いわゆる「シリコンサイクル」の一環であり、市場自体は今後も右肩上がりで成長していくとみている。
2024年3月期の業績は、売上高2200億円(前期比4.4%増)、営業利益270億円(同23%減)を見込んでいる。事業別では、製造装置向けの製品を扱う半導体等装置関連事業の石英坩堝が特に成長した。電子デバイス事業ではパワー半導体用絶縁基板の売上高が好調で、2022年比で1.5倍になった。電気自動車(EV)や再生可能エネルギー、航空関連などでのニーズの高まりが増収につながった。
――2024年の市況をどのように見ていますか。
賀氏 市況が大幅に上向くことはないとみている。回復基調になるのは2025年ではないか。その時に取りこぼすことなくビジネス機会をつかめるよう、投資を継続し、準備を整えている。長期業績目標として掲げる2031年3月期売上高5000億円、純利益500億円の達成に向け、2025年3月期には売上高2700億円、営業利益450億円を目指す。厳しい目標だが、われわれのターゲット市場は堅調に成長している。
――2022年に事業方針を変更し、これまでの中国中心から「日本回帰」と「グローバル戦略強化」を進めてきました。
賀氏 欧米、日本、東南アジアなどの各国で、半導体産業サプライチェーンを自前で構築し、自前で消費する“地産地消”に向けた動きがますます顕著になっている。各国/地域の政府は、補助金支給をはじめとする優遇措置を講じ、半導体工場などの誘致政策を積極的に進めている。
こうした状況を受け、当社は日本でもグローバルでも投資を強化してきた。日本では、160億円を投じて建設中の熊本工場が2024年中に完成する。半導体関連企業の投資が拡大し、シリコンアイランドと呼ばれる九州で、半導体製造装置向けの部材である石英製品と、装置部品洗浄サービスの2つを展開する。セラミックス製品を製造する石川工場では、2023年12月に第3工場の着工式を実施したばかりだ。さらに、CVD-SiCを生産する岡山工場の増強を図っている。拡張の規模などを検討している段階だ。これらの工場では自動化/デジタル化を進め、高い生産効率と品質とを両立させる工場運営を目指す。加えて、これまで中国で実施してきた精密金属加工受託ビジネスを日本で展開するための拠点作りも加速させる。
――グローバルでの投資についてはいかがですか。
賀氏 2024年は、特にマレーシアでの投資を強化する。まずはセラミックス、石英、受託加工/組み立てサービスを手掛けるクリム工場を新設する。ジョホールバル(ジョホール州の州都)にもパワー半導体用絶縁基板を製造する工場を建設中だ。いずれも2024年中に本格的な量産を開始する。ジョホールバル工場の生産能力はAMB(Active Metal Brazing)基板で月産20万枚、DCB(Direct Copper Bonding)基板で月産30万枚を予定しており、同製品は中国に保有する3工場を含めると、世界的にもトップクラスの生産規模となる。
米国では、開発と営業を強化する。米国でのビジネス強化と拡大に向け、製品ポートフォリオの改善などを行っている。
――事業ポートフォリオの拡大に向けた施策についてお聞かせください。
賀氏 電子デバイス事業では、車載向けビジネスを強化する。パワー半導体用絶縁基板や温度センサなどを車載市場に積極的に展開していく。2024年3月期には車載向けで売上高270億円規模を見込む。
2023年に完全子会社化を発表した大泉製作所のサーミスタ素子/温度センサを拡販する。特にEV、再生可能エネルギー、光通信、医療機器、家電の5つの分野を狙う。中国・麗水には、温度センサを手掛ける合弁会社を設立する計画だ。大型投資を計画しており、中国での需要増に対応する。この合弁会社も、フェローテックがさらに成長するための足掛かりになるだろう。
さらに、生成AIの台頭によって半導体冷熱素子であるサーモモジュールの需要が高まっている。生成AIでは大容量のデータ通信に高速の光トランシーバが欠かせない。この光トランシーバに搭載されるサーモモジュールで、当社は既に高いシェアを保持している。2025年3月期以降は、この生成AI向け光トランシーバの需要増が見込まれており、それに伴ってサーモモジュール分野もさらなる伸びが期待できる。
――ハイテク分野における米中の分断は深刻化の一途をたどっています。米中対立はビジネスに影響を与えていますか。
賀氏 米国の厳しい対中規制により、中国では自国で半導体を開発、製造する機運が高まっている。多くの優遇政策があり、規制の対象外になるレガシー半導体やパワー半導体のプロジェクトが特に増えていて、当社にとっても追い風になっている。拡大する中国市場に向け、石英やセラミックス、CVD-SiCといった半導体製造装置用部材の他、受託加工/組み立てサービス、装置部品洗浄サービスの展開も加速する。特にニーズが高いCVD-SiCについては、中国・常山工場の生産ラインを展開する。2024年第2四半期(4〜6月期)以降に試作を開始できる見込みだ。
日本回帰とグローバル戦略の強化は打ち出しているが、中国市場における成長のポテンシャルは大きい。2023年も、中国でのビジネスが成長した。2024年は、全社売上高に占める中国の売上高が半分近くになる可能性がある。
――長期的な業績目標として、2031年3月期に売上高5000億円、純利益500億円の達成を掲げています。
賀氏 世界経済は先行き不透明な状態が続いているが、EVや再生可能エネルギー、医療機器などの成長市場における需要は手堅く、当社が成長する余地は十分にある。
2024年、日本の半導体産業はますます強くなっていくと期待している。半導体産業の川上(材料)から川下(チップ製造)まで、全ての技術を保有しているのは日本だけだ。当社は、日本の半導体産業の強化において、高品質の製品やサービスの提供で貢献していく。
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