トレックス・セミコンダクターは、将来の事業成長に向けて低消費電力/小型電源ICやパワー半導体の新製品投入を加速させている。同時にトレックスグループの半導体受託製造企業(ファウンドリ)であるフェニテックセミコンダクターの設備投資なども進め、供給能力を積極的に増強してきた。「成長のための下地は整った」とするトレックス・セミコンダクター 代表取締役社長 芝宮孝司氏に聞く。
――2023年を振り返っていただけますか。
芝宮孝司氏 半導体市況は2021〜2022年の好調ぶりから一転、反動もあってとても厳しい1年になった。特に中国市場、民生機器市場の低迷の影響が大きかった。2023年後半になって底を打った感はあるが、中国市場を中心にまだまだ不透明さは残り、需要回復に力強さがないという印象だ。その結果、当社の業績も好調だった2022年度(2023年3月期)からは減収になる見込みだ。
市況環境こそ厳しかった2023年だが、成長のための設備投資、製品開発といった仕込みをしっかりできた1年になった。
――2023年の設備投資について教えてください。
芝宮氏 アナログ/パワーデバイスを中心にファウンドリ事業を手掛けるフェニテックセミコンダクターの鹿児島工場5号館3階のクリーンルーム化を実施した。2024年1月に製造装置の搬入を開始し、2024年度に量産を開始する見込みだ。この設備投資で鹿児島工場既存建屋の生産能力増強が完了し、2025年には鹿児島工場によるトレックス向け生産能力が2021年比で約3倍に達する見込みだ。
トレックスも、フェニテック鹿児島工場の他に外部ファウンドリの専用ラインを構築し、将来の半導体需要拡大に対応できる生産能力を確保できた。
――製品開発についてはいかがですか。
芝宮氏 2021年、2022年と旺盛な需要に応えて供給することが最優先になってしまい、製品開発が後手に回りがちだった。2023年は供給問題が解消して製品開発にリソースを配分できる環境が整い、開発のスピードアップに重点を置いて取り組んできた。その結果、開発速度を2020年ごろの1.5倍ほどに向上させることができた。
――開発スピードを向上させてどのような製品を開発されましたか。
芝宮氏 注力する車載機器や産業機器市場で要求される高耐圧、大電流対応製品の開発に注力し、耐圧60Vで300mA出力のDC-DCコンバーターなどを投入した。こうした高耐圧、大電流のDC-DCコンバーターのチップはコイルと一体化させた電源モジュール「micro DC/DC XCLシリーズ」に応用し、製品化する。
micro DC/DC XCLシリーズは小型、低ノイズで、設計負荷を軽減できるといった特徴からウェアラブル機器や産業機器、車載機器などに幅広く採用され、トレックスを代表する主軸製品に成長した。高耐圧、大電流に応じた新たな構造の製品の開発にも着手しており、micro DC/DC XCLシリーズの高耐圧、大電流対応を加速させる。
低耐圧のDC-DCコンバーターも、トレックスらしい小型、低消費電力という特徴を持つ製品を順次投入する。マイコンやプロセッサ、各種センサーでは0.4〜0.6Vといった超低電圧駆動のデバイスが登場してきた。電源ICは駆動電圧の±1%の精度で電圧を供給してきた。5V駆動なら5V±50mVという精度でよかったが、0.4V駆動はわずか±4mVの誤差しか許されない。計測さえできるかできないかの高精度が要求されるようになる。こうしたニーズに応えられるように技術革新を起こして製品を投入する。
昇圧型のDC-DCコンバーターの開発も強化する。2023年には、待機時間が長いウェアラブル機器やIoT(モノのインターネット)機器などに適した、自己消費電流が400nAの昇圧型DC-DCコンバーター「XC9145シリーズ」を発売した。消費電流が少ない昇圧型DC-DCコンバーターは、エナジーハーベスト(環境発電)素子を使用したシステムに不可欠な電源ICだ。トレックスの低消費電力技術が生かせる領域であり、素子メーカーと協業して他社が追従できない低消費電力スペックの昇圧型DC-DCコンバーターを開発する。
――パワー半導体の開発も進んでいます。
芝宮氏 フェニテックが培ってきたパワー半導体技術をベースにトレックスブランドのオリジナル製品の開発を進めている。2023年にはSiC(炭化ケイ素)による850Vショットキーバリアダイオード(SBD)を製品化し、サンプル提供を始めた。1200VのSiC-SBDやSiC-MOSFETも2024年3月期末にサンプル提供を始める計画だ。
シリコンによるパワーデバイスのオリジナル品も並行して開発中で、2023年には1.5V以下の低電圧駆動MOSFETの量産を開始した。フィールドストップ型IGBTやスプリットゲート型MOSFET、高性能SBDも開発中だ。2024年度にはサンプル出荷を始められる見込みであり、SiC、シリコンともに一通りのパワー半導体製品がそろうことになる。
さらにその先を見据えて、2020年に資本提携を結んだノベルクリスタルテクノロジーとの協業を通じた酸化ガリウムデバイスの開発も継続する。
――トレックスグループの拡大中期業績目標として2025年度売上高370億円、営業利益55億円、2028年度売上高450億円、営業利益80億円を目指されています。
芝宮氏 2024年の半導体市況は厳しい状態が続く見通しであり、拡大中期業績目標も簡単には達成できない環境になるだろう。ただ、設備投資や製品開発といった拡大中期業績目標達成の下地は2023年に整えることができた。後は販売するだけであり、目標達成に向けて2024年は営業活動に注力する。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年2月9日