自動車業界で「電動車」や「自動運転車」の開発競争が本格化してきた。こうした中、ソフトウェアでクルマの機能を定義するSDV(Software Defined Vehicle)が新常識となりつつある。ETAS(イータス)は、SDV時代に対応するための包括的な開発環境を提案している。イータスの日本法人で代表取締役社長を務める水本文吾氏に、2024年の事業戦略などを聞いた。
――2023年9月1日付でイータス日本法人の社長に就任されました。
水本文吾氏 2019年にボッシュに入社し、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、コネクテッドサービスを推進する事業部門で新規事業を開拓してきた。2021年にクロスドメインコンピューティング事業部に配属されてからは、ADAS(先進運転支援システム)や車載コンピュータといった車載エレクトロニクスを横断的に捉え、SDV時代に向けたソリューションの提案に携わった。
――車載ソフトウェアの市場性をどのようにみていますか。
水本氏 2030年には、市場規模が現在の2〜3倍に拡大するという予測もあり、成長分野だとみている。これからは、ソフトウェアの搭載やアップグレードによって自動車の機能が進化するSDVの時代がやって来る。つまり、クルマの価値をソフトウェアが決めることになる。
半面、搭載されるソフトウェアは複雑化の一途をたどっている。システムを効率的に開発するためには、開発手法やそれに必要なツール群、組織、ソフトウェアの調達方法などを抜本的に見直し、最適化しなければならない。
既に大手自動車メーカー(OEM)はSDVへの取り組みを始めている。ただ、SDV化と機能安全の確保を両立させ、かつ膨大で複雑なプログラムを高速処理するには、より高性能なプロセッサを搭載する必要がある。これによって開発と部材のコストが上昇するといった課題も浮上しており、現状は試行錯誤の段階にあるのではないか。
――そうした課題を踏まえ、イータスの今後の製品戦略についてお聞かせください。
水本氏 OEMがSDV化のメリットを享受できるような支援を行う。OEMが、「自動車ユーザーにとって価値を持ち続けるクルマ」を開発するための環境を提供するということだ。それには、ソフトウェアの開発をできるだけ自動化、効率化できる開発環境が必要だ。
そうした開発環境の一つとして、「ソフトウェアファクトリー」という概念を提唱する。ソフトウェアファクトリーは、OEM、ティア1、サードパーティが使用している多数のツールを相互接続して自動化する。安全で高品質なアプリケーションソフトウェアを開発するための“共通プラットフォーム”のようなものだ。OEMやティア1、開発ベンダーなどが共通のプラットフォームで協調開発するため、手戻りをなくして効率良くソフトウェアを開発できる。
2023年に発表した、コネクテッドカーシステム開発用のクラウドベースの総合プラットフォーム「PANTARIS」も拡販する。車載ソフトウェアの開発/更新と、OTA(Over the Air)を介した車両サービスの提供/利用のためのプラットフォームだ。SDV用の機能やサービスの開発と提供を容易に実現できる。
――SDVは、これまでとは全く異なる概念の自動車です。開発に対するOEMの考え方も変化しているのでしょうか。
水本氏 ツールやミドルウェア、テスト環境といった非競争領域のソリューションについては、外部の専門ソリューションを積極的に活用するという動きが目立っている。OEMが自社で構築する必要がない、非競争領域のソリューションを提供するのが当社の役目だ。
SDVの成熟のためには、オープンソースの活用や、パートナー企業の強みを生かす、連携や協調が極めて重要になる。
――イータスが高いシェアを持つデータ収集・処理ソリューションについてはいかがですか。
水本氏 当社の代表的な計測、適合、診断ツール「INCA」をはじめとするデータ収集・処理ソリューションは事業の柱の一つでもある。2024年以降は、これらのソリューションをADASやBEV(バッテリー自動車)の分野に展開する。これまでは主に内燃エンジンECUを対象としていたソリューションだが、大量のデータを収集して解析する手法はモーターを使用するBEVのパワートレイン開発にも十分に応用できる。
――SDVでは、セキュリティも重要になってきます。
水本氏 自動車サイバーセキュリティのソリューションである「ESCRYPT」の事業も順調に拡大している。HSM(ハードウェアセキュリティモジュール)実装を支援するソフトウェアスタック「CycurHSM」、車載ネットワーク上の侵入検知をする「CycurIDS」、車載イーサネット用IPファイアウォール「CycurGATE」、バックエンド側でサイバー攻撃を分析し車両監視ソリューションを支援する「CycurGUARD」など、包括的なセキュリティ対策を提案できるのがイータスの強みだ。
2023年には、セキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性分析ツール「CycurRISK」、脆弱性を洗い出すファジングテスト用ツール「CycurFUZZ」も発表した。ISOなどが定める規制では、車載ソフトウェアの堅牢(けんろう)性を証明する必要があり、「自動車サイバーセキュリティはイータスに任せよう」というOEMの声もあるようだ。
――2024年における自動車業界の市況やイータスの業績をどうみていますか。抱負もお聞かせください。
水本氏 自動車業界の市況は良くなるとみている。イータス自身も業績の拡大を予定している。特に、ソフトウェアファクトリー構築プロジェクトが日本企業でも新たに始まる。SDVの実現に向けて自動車メーカーや関連企業を包括的に支援し、「SDVといえばETAS」と認知されるように当社の存在感をさらに高めていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:イータス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年2月9日