その謎は、図11に示した各種HBMの出荷個数および合計のHBMの出荷個数の推移を見ると氷解する。
まず、2022年までは、主にHBM2が出荷されていた。次に、NVIDIAのGPUが大ブレークした2023年には、HBM2に替わってHBM2Eが主役となった。さらに、ことし2024年から2025年にかけては、HBM3が主流となる。そして、2026〜2027年にHBM3Eの出荷個数が最多となり、2028年以降はHBM4が主役に躍り出ることになる。
つまり、HBMは、おおむね2年の間隔で世代交代をしていくわけだ。ということは、DRAMメーカーは、微細化も1nm刻みで進める上に、HBMの規格も2年間隔で更新しなければならないことになる。
そのため、全てのHBMの出荷個数は、図11から明らかなように、2025年以降はほとんど増えない状態になる。これはDRAMメーカーがサボっているわけではなく、彼らは全力で最先端のDRAMを生産し、これまた最先端のHBMを作らなければならないために起きている現象である。
加えて、HBMの出荷個数が2025年以降、あまり増えない理由の一つに、HBMに積層するDRAMチップ数が増えるということもある(図12)。GPUの高性能化に合わせて、HBMのメモリ容量(GB)も増大させなければならないため、HBM内のDRAMの積層数は、HBM2とHBM2Eで4〜8枚、HBM3とHBM3Eで8〜12枚、HBM4では16枚に増えることになる。
つまり、HBM2ではDRAMが4〜8枚あれば良かったが、HBM4ではその2〜4倍の16枚のDRAMが必要となる。ということは、DRAMメーカーは、HBM4の時代には、HBM2より2〜4倍ものDRAMを生産しても、HBMの出荷個数は同程度ということになってしまうわけだ。
このように、DRAMが1nm刻みで微細化を続けること、HBMは約2年で世代交代すること、HBMに積層するDRAMが世代とともに増えていくこと、などから2025年以降、合計のHBMの出荷個数が飽和することになると予想されるのだろう。
では、HBM不足は今後も続くのだろうか? DRAMメーカーは、これ以上、HBMの出荷個数を増大させることができないのだろうか?
DRAMメーカーが飛躍的にHBMの出荷個数を増やすことができない理由を説明してきたが、それでもDRAMメーカーはその限界(?)を超えて、HBMの大量生産に挑むだろう。それは、HBMの価格がとても高いからである。
図13は、各種HBMと通常のDRAMのGB当たりの平均価格を示したグラフである。通常のDRAMも、HBMも、リリースされたときが最もGB当たりの価格が高い。その傾向は同じであるが、通常DRAMとHBMのGB当たりの価格は20倍以上も違う。なお、図13では、通常DRAMとHBMのGB当たりの平均価格を比較できるように、通常DRAMの価格を10倍にしてグラフに記載してある。
リリースされた直後の最も価格が高い時で、GB当たりの価格を比較すると、通常DRAMが0.49米ドルであるのに対して、HBM2が約23倍の11.4米ドル、HBM2Eが約28倍の13.6米ドル、HBM4では30倍の14.7米ドルになる。
さらに、図14は、各種HBMの平均価格を示したグラフである。価格が最も高い時で、HBM2が73米ドル、HBM2Eが157米ドル、HBM3が233米ドル、HBM3Eが372米ドル、HBM4は何と560米ドルにもなる。
このHBMの価格がどれだけ高価かということを図15に示す。例えば、DRAMメーカーが1zプロセスで生産しているDDR5の16GBのDRAMは、せいぜい3〜4米ドルである。ところがことし(2024年)、SK hynixがリリースするHBM3Eは、その90〜120倍の361米ドルもする。
なお、DDR(Double Data Rate)はメモリ規格のことである。データ転送速度が高速化していて、DDR5はDDR4の2倍高速に、DDR6はDDR5より2倍高速になっている。2024年は、DDR4からDDR5への切り替えの年となっており、DRAMメーカーはDDR規格も更新し続けなければならない。
話をHBMに戻すと、HBM3Eは、TSMCの最先端3nmプロセスで生産されている最新型「iPhone 15」用の「A17 Bionic」AP(Application Processor)とほぼ同じチップサイズであるが、その価格は3.6倍も高い。先端Logicより、DRAMのHBMの方が高いのである。これは衝撃的である。そして、この高価格が故に、DRAMメーカーは、HBMの覇権を制するべく、全力で出荷個数を増やそうとするだろう。
では、DRAMメーカー3社のロードマップを見てみよう。
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