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NVIDIAのGPU不足は今後も続く ボトルネックはHBMとTSMCの中工程か湯之上隆のナノフォーカス(72)(6/6 ページ)

» 2024年05月07日 11時30分 公開
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HBMを巡るDRAMメーカーの争い

 図16は、2015〜2024年において、DRAMメーカー3社が、どのようにHBMを生産してきたかを示している。

図16 SK hynix、Samsung、MicronのHBMのロードマップ 図16 SK hynix、Samsung、MicronのHBMのロードマップ[クリックで拡大] 出所:DIGI TIMES Research, ”HBM Technology and capacity development” (2024年1月)のレポートの図

 最初にHBM1の量産に成功したのは、SK hynixである。とろろが、HBM2では、SK hynixよりも、Samsungの方が先に量産を実現した。そして、2023年にNVIDIAのGPUが大ブレークしたとき、たまたま(?)SK hynixがどこよりも早くHBM3の量産に成功した。これが、SK hynixに多大な利益をもたらした。その結果、DRAMのチャンピオンのSamsungは後れを取ってしまった。

 一方、もう1社のDRAMメーカーのMicronは、当初HBMとは規格が異なるHMC(Hybrid Memory Cube)の開発を行っていた。しかし、米国で半導体標準化を推進する業界団体JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)が、HMCではなく、HBMの規格を正式に認定した。そのため、Micronは2018年以降、HMCの開発を諦め、韓国メーカー2社に大きく遅れてHBMの開発に参入することになった。

 以上の結果、2024年3月20日のBloombergの報道によれば、HBMの市場シェアは、SK hynixが54%、Samsungが41%、Micronが5%となっている。

 HBMのシェア1位のSK hynixは、2023年にNANDの工場M15でHBMの生産を開始した。また、ことし2024年前半にHBM3Eをリリースする。さらに、2025年には、現在建設中のM15X工場をHBM専用に設計変更し、HBM3EとHBM4を生産する予定である。

 一方、SK hynixに追い付きたいSamsungは、2023年にSamsung Displayの工場でHBMの生産を開始し、2024年にはHBMのキャパシティーを2倍に拡大し、2025年にはSK hynixより早くHBM4を量産する計画を立てている。

 出遅れてしまったMicronは、HBM3をスキップし、2024〜2025年にHBM3Eで勝負をかけ、2025年に市場シェア20%を獲得することを目指している。さらに2027〜2028年にかけて、HBM4およびHBM4Eの量産で、先行する韓国メーカー2社に追い付く目標を立てている。

 このように、DRAMメーカー3社が激しい競争を展開することによって、HBMの出荷個数が飽和する状態を打破し、それがHBM不足を解消することにつながるかもしれない。

NVIDIAのGPU不足はいつまで続くのか

 本稿では、NVIDIAのGPUなどのAI半導体が世界的に不足している原因について説明してきた。その原因は以下の2つである。

1)NVIDIAのGPUは、TSMCのCoWoSパッケージで作られている。このCoWoSのキャパシティーが全く足りない。その理由は、GPU、CPU、HBMなどのチップを搭載するシリコンインターポーザーが、世代が進むとともに巨大化していることにある。TSMCはこの中工程のキャパシティーを増大しようとしているが、GPUの世代が進むとインターポーザーも巨大化するため、いつまでも「いたちごっこ」が続く可能性がある。

2)CoWoSに搭載されるHBMが不足している。その理由は、DRAMメーカーは1nm刻みで微細化を続けなければならない上に、HBMの規格も2年間隔で世代交代を余儀なくされ、HBMの中に積層するDRAMチップも世代とともに増大するからである。DRAMメーカーは全力でHBMを生産しているが、その出荷個数は2025年以降、飽和すると予測されている。ただし、HBMの価格が非常に高いことから、DRAMメーカーが猛烈な競争を展開しており、その結果としてHBM不足を解消する可能性も考えられる。

 このように、NVIDIAのGPU不足をもたらしているボトルネックは、TSMCの中工程のキャパシティー不足とHBM不足の2つあるが、これらの問題が1年程度で解決されるとは考えにくい。従って、NVIDIAのGPU不足は、今後数年(いや、もっとか?)は続くと予測する。

連載「湯之上隆のナノフォーカス」バックナンバー

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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