東京大学の研究グループは、シリコン膜の表面をわずかに酸化させるだけで、シリコン膜からの熱放射を倍増させることに成功した。半導体デバイスにおける放熱、排熱対策として期待される。
東京大学の研究グループは2024年5月、シリコン膜の表面をわずかに酸化させるだけで、シリコン膜からの熱放射を倍増させることに成功したと発表した。半導体デバイスにおける放熱、排熱対策として期待される。
高性能半導体デバイスを搭載する電子機器では、局所的な発熱による性能や信頼性の低下を防ぐため、熱の管理が重要な課題となっている。熱の伝わり方として一般的なのは、「伝導」「対流」「放射」である。これとは別に誘電体薄膜では、「表面フォノンポラリトン」が熱放射に関与することが知られている。
研究グループは今回、シリコンから空間への熱放射を増やすため、表面フォノンポラリトンを利用することにした。実験では、厚さ10μmのシリコン(非誘電体)表面を30nmだけ酸化させ、表面フォノンポラリトンを発生させることができる誘電体を形成した。そして、3層の多層膜端から放射される熱の強さを測定するため、2つの構造を10.7μm間隔で対向させたデバイスを作製した。
さらに、2つの3層構造上にそれぞれ金属線を形成し、ジュール熱により加熱されるヒーターと、電気抵抗の温度依存性を利用した温度センサーを作製した。片方の3層構造のヒーターに電流を流して加熱すると温度が上昇する。輻射熱輸送によってもう一方も温度が上昇する。これを温度センサーで測定することにより、2つの3層構造間における輻射熱輸送(熱コンダクタンス)を評価した。
シリコンだけの場合、プランクの熱放射則で決まる輻射熱となった。これに対し、表面フォノンポラリトンを利用した3層構造では、2つの構造間の輻射熱コンダクタンスが、シリコンのみの場合に比べ約2倍の値を示した。この実測値は、表面フォノンポラリトンの効果を考慮した理論計算値とよく一致しているという。
また、シリコン酸化膜とシリコンの界面で励起された表面フォノンポラリトンがシリコン内の導波モードに結合し、シリコンが導波路として機能することが分かった。単一薄膜からの熱輸送というこれまでとは異なるメカニズムによって、輻射熱輸送の増強が生じていることを確認した。
今回の研究は、東京大学大学院工学系研究科の立川冴子大学院生(研究当時は日本学術振興会特別研究員)、同大学生産技術研究所のホセ・オルドネス国際研究員、ロラン・ジャラベール国際研究員、セバスチャン・ヴォルツ国際研究員、野村政宏教授らと、フランス国立科学研究センターが共同で行った。
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