このところ中国に向けて半導体製造装置が大量に出荷されている。一方で、中国産の半導体デバイスの流通量が増えている様子がない。どういうことなのだろうか。
半導体製造装置が中国に向けて大量に出荷され続けている。SEMIなどによれば、世界全体の半導体製造装置出荷に占める中国向けの割合は、2022年が26%、2023年が同35%(いずれも金額ベース)で、2024年は5月時点で約50%にも達しているという。当然、中国における半導体製造はさぞかし活性化しているのだろうと思いたくなるが、実は実態が明らかになっていない。そもそも中国製半導体は世界市場にどれぐらい流通しているのか、どのメーカーがどれだけ生産しているのか。筆者が疑問に思っていることを、ここで紹介してみたい。
調査会社Omdiaによれば、2023年の世界半導体マーケットシェアは、Intelが首位に返り咲き、NVIDIAが2位に躍進、といった動きが見られた。メーカー国籍別のシェアを見ると、米国籍が世界の55.8%を占め、欧州勢は同11.5%、日本勢は同8.7%、韓国勢が同13.2%、台湾勢が同6.3%、中国勢が同3.8%となっている。このシェアはブランドベースなので、TSMCのように自社ブランドを持たない半導体受託製造専業メーカー(ファウンドリー)の売り上げはカウントされない。中国で言えば、SMICの売上高もここではカウントされないので、この数字が各国や地域での生産比率を表しているわけではない。しかし、SMICは売上高の約8割が中国向けなので、中国籍シェアの数字には十分貢献しているはずである。ちなみに中国で2番手のファウンドリーであるHua Hong Graceも、売上高の約8割が中国向けである。
では、中国籍の半導体メーカーで主要な企業と言えばどこか。筆者としては、Unisocというファブレスの通信ICメーカー、YMTCというNAND型フラッシュメモリメーカーなどが頭に浮かぶが、いずれもOmdiaのシェアランキング上位30社には入っていない。
もちろん調査会社としても、中国の新興企業の情報を完全に網羅することは困難であり、調査対象から漏れている企業もあるだろう。中国企業のシェアは、実際には3.8%より大きいかもしれない。なかには、中国産の半導体シェアは世界の2割、あるいは3割を占めている、という記事をみかけることもある。仮にそうであれば、中国産の半導体は世界の市場動向や需給バランスに大きな影響を及ぼしているはずである。ところが、実際にはその影響が確認できないのだ。
下図は、半導体製造装置市場と半導体市場の前年同月比をグラフ化したものである。
半導体市況が盛り上がるときは装置の出荷も旺盛になり、不況の時は装置の出荷も低迷する、という両者の強い相関関係が見て取れる。しかし、この相関関係が2022年後半から崩れ始めた。2023年は年間を通じてその傾向が顕著で、半導体市況が低迷しているにもかかわらず、製造装置の出荷は大きな下落を見せずに推移している。この時の状況をもう少し詳細に述べると、Samsung Electronics、TSMC、Intelなど半導体メーカー各社は、低迷する市況に合わせて製造装置の購入を手控えていたが、中国向けの製造装置出荷が増加したことで、その下振れがカバーされていたのである。では、中国向けの装置出荷はどれくらいあるのだろうか。
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