まず考えられるのは、多くの中国産デバイスは中国内のみで消費されている、ということである。例えば先日、テカナリエの清水洋治氏が執筆した記事では「最新ドローンを分解したら半導体はほぼ中国製」とあった。筆者も「なるほど、このような事例は機器によってはあり得るな」と納得させられた。世界中のPCの9割、スマホの7割を生産している中国では、これらの機器にも可能な限り中国製デバイスを売り込もう、という努力もしているはずである。先端プロセスでの量産ができない以上、MPUやメモリを置き換えることは困難だろう。だが、レガシーなデバイスなら置き換えても目立たないし、ニュースに取り上げられることもなく実績を上げられるかもしれない。
もう1つ考えられるのは、中国政府や自治体の補助金で半導体工場を設立し、装置を導入したが、量産に至っていない、というケースである。これまで中国は、液晶パネル、太陽光発電パネル、蓄電池など、多くの産業において多額の補助金を投入し、多くの中国企業を支援してきた。最終的に生き残った企業はどの分野でもわずか数社にすぎないが、半導体でも同様のことが行われている可能性は高い。中国に出荷された製造装置が全て量産に寄与しているとは限らない。
正直なところ、実態が確認できていない以上、仮説はあくまでも仮説にすぎないが、半導体市場と製造装置市場の相関関係が崩れたまま、という不自然な状態が今後いつまで続くのだろうか。すでに世界中に中国産の半導体があふれかえっていることを前提としたような記事には強い違和感を覚える。しかし、太陽光発電パネルや蓄電池では中国産製品が世界最大のシェアを誇っていることを考えると、半導体では絶対そんなことは起こらない、と断言することも乱暴だろう。筆者としては、2030年になっても中国産の半導体シェアが10%未満にとどまる可能性が高い、と予測している。ただ、今後の動向を注意深く見守る必要がありそうだ。
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慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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