東北大学と慶應義塾大学、漢陽大学校(韓国)、産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、クロム窒化物(CrN)が高速な相変化によって電気抵抗が大きく変化することを発見した。CrNは環境に優しく動作電力を低減できることから、相変化メモリ(PCRAM)の情報記録材料として期待されている。
東北大学と慶應義塾大学、漢陽大学校(韓国)、産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは2024年8月、クロム窒化物(CrN)が高速な相変化によって電気抵抗が大きく変化することを発見したと発表した。CrNは環境に優しく動作電力を低減できることから、相変化メモリ(PCRAM)の情報記録材料として期待されている。
高速かつ大容量の不揮発性メモリ(NVM)として、素子構造が単純な相変化メモリ(PCRAM)が注目されている。ただ、既存のPCRAMは情報記録層にテルル(Te)をベースとした相変化材料(PCM)が用いられており、動作電力が大きいことや希少金属であることなどが課題であった。
研究グループが今回PCMとして着目したのはCrN。切削工具などの表面にコーティングする硬質被膜として知られている材料である。欠陥制御により金属的な挙動から半導体的な振る舞いまでさまざまな物性を持たせることができる。圧力や温度によって結晶構造を制御することも可能なため、PCRAMへの応用が期待されていた。
今回の実験では、CrNが高速ジュール加熱によりナノ秒での相変化が誘起され、電気抵抗が5桁以上も大きく変化することを確認。しかも、従来GST(Ge-Sb-Te:ゲルマニウム・アンチモン・テルル)系PCMと同じように高速で動作し、動作エネルギーを1桁節減できることを実証した。さらに、30ナノ秒という高速書き換え動作が可能で、セットとリセット状態の電気抵抗差が105以上という大きな動作ウィンドウを持つため、情報読み取り精度の大きな向上が見込めるという。
研究グループは、CrNの相変化メカニズムについて、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて調べた。成膜状態でのCrNは電気抵抗が小さく、結晶構造は立方晶(Cubic相)を示した。電圧パルスによるジュール加熱で高電気抵抗へと相変化した領域は、六方晶CrN2(Hexagonal相)となることが分かった。
なお、CrNのCubic相内に六方晶 CrN2相が形成されるプロセスとして、クロム原子と窒素原子の局所的な組成変化と同時に、結晶構造に変化が生じていることが分かった。このプロセスは、従来PCMの相変化とは全く異なるものだという。熱分布シミュレーションにより、この原子拡散と構造変化が熱効果によって引き起こされていることを見出した。
今回の研究成果は、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の双逸助教と同大学大学院工学研究科の須藤祐司教授(兼材料科学高等研究所)、森竣祐大学院生(当時)、山本卓也助教(当時)、畑山祥吾学術研究員(当時)、安藤大輔准教授、慶應義塾大学理工学部のPaul Fons教授、漢陽大学校(韓国)のY.H. Song教授、J.P. Hong教授および、産総研の齊藤雄太研究グループ長(現在は東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センター教授)らによるものである。
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