Appleが2024年2月に米国で発売した「Vision Pro」。そこに搭載されているプロセッサ「R1」は、Appleが提案する「空間コンピュータ」という新たなカテゴリーのデバイスにおける進化の方向性を示している。
Appleが新たに「空間コンピュータ」として提案した「Vision Pro」ヘッドセットは、コンピューティングにおける新たなマイルストーンであろう。空間コンピューティングのコンセプトは新しいパラダイムであり、2007年の「iPhone」以降、Appleが発表した初の新しいクラスの製品となる。同様に、Vision Proに搭載した「R1」はまったく新しいチップ設計である。
AppleがiPhoneを作ったと繰り返すのはあまり意味のないことだが、Appleが近年、巨大企業に成長したのは間違いなくiPhoneのおかげだ。2023年の年次報告書によると、iPhoneはAppleの収益の半分強を占めている。現時点から大きな成長を期待するのは間違いだ。実際、iPhoneの売上高は「iPad」とともに減少(2%)していて、「Mac」ラインは大幅に減少(27%)している。
Appleの熱狂的なファンは、iPhoneの次の大ヒット製品を辛抱強く待っていた。同社はその期待に応え、電気自動車の開発にリソースを投入した。しかし、Appleの経営陣は、ファンや技術系メディアが期待する以上の別の大ヒット製品が必要だと考えていた。
Vision Proは、Macのコンセプトに広く適合する新製品に対するさまざまな要望を形にしたものだ。
Vision Proシステムは、R1とともに「M2」マイクロプロセッサを搭載しており、R1はコプロセッサとして機能する。Appleのラインアップにある他の多くの完全なコンピューティングプラットフォームはMシリーズプロセッサのみを必要とすることから、R1はAppleの新しいビジュアルコンピューティングコンセプトを実現する重要なピースであることが分かる。
R1を他のSoC(System on Chip)設計と比較すると、不満を感じるだろう。R1は、Vision Proを動作させる非常に特殊なリアルタイム機能のためのカスタム設計で、この特殊な用途向けに新規に設計された。
メインボードの画像を見ると、システムのR1部分はシングルチップではないことが見て取れる。かすかではあるが、複数のチップレットで構築されたシステムである可能性を示唆する境界線が見える。これらの画像をよく見ると、中央の大きなシリコンが10個の小さなダイに囲まれていることが分かる。
R1にはSK hynixのLLW(Low Latency Wide) DRAMが搭載されているが、中央のダイの周囲にさまざまなサイズのピースが集積されていることから判断すると、10個のダイ全てがLLW DRAMであると考えるのは、賢明な洞察とは言えないだろう。Appleが通常、TSMCに委託している統合ファンアウトアセンブリの種類を知っていれば、熱的および機械的な考慮事項が多数あることに気付くはずだ。後に続くVision Proのアセンブリのための堅牢なプラットフォームを維持するにはダミーシリコンが必要であるということについては、誰も驚かないだろう。
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