米国で発生したハリケーン「Helene」によって、石英鉱山および高純度石英の精製工場が稼働を停止している。サプライヤーは十分な在庫を確保していて、サプライチェーンへの深刻な打撃は抑えられるとしているものの、生産停止が長期化すれば半導体チップの価格が上昇する可能性もあるとアナリストは指摘する。
米国EE Timesの取材に応じたアナリストたちによると、半導体業界で使われる高純度石英の約80%を供給しているSibelcoは、米国で発生したハリケーン「Helene(ヘレン)」によって鉱山の操業停止に追い込まれたが、約3カ月後に米国での生産を再開する見込みだという。
Sibelcoは発表した声明の中で、「2024年9月末に発生したハリケーンは、幅広い地域に洪水や停電、通信断絶を引き起こし、重要インフラへの損害をもたらした。鉱山労働者たちは大きな混乱に直面している」と述べている。
Boston Consulting Groupで半導体調達コンサルティング部門の責任者を務めるKarl Breidenbach氏は、EE Timesの取材に対し、「洪水被害が主に地表のインフラに限られていた場合は、Sibelcoのグローバルな事業規模や混乱への対応経験などを考えると、復旧に2〜3カ月を要する可能性がある。しかし注意すべきは、もし鉱山の業務の深部や装置にまで重大な影響が及んでいた場合は、復旧に6カ月以上かかる可能性もあるという点だ」と指摘する。
今回のような生産停止は、世界半導体サプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにする。主要な鉱物や労働者の不足の他、停電や、米中による輸出規制などの成長阻害要因により、半導体メーカーは、「ジャストインタイムの在庫管理」を、「ジャストインケース(万が一)の材料/装置の大量備蓄」に置き換えざるを得なくなっている。
Breidenbach氏は、「2008年に、Sibelcoの鉱山の火災によって大きな混乱が生じた際は、復旧までに数カ月間を要した」と指摘した。
「それ以降、半導体業界における高純度石英の世界需要が急増している。半導体/太陽電池製造用材料の重要な特質を考えると、Sibelcoは、インフラ復旧に向けて現地/連邦当局と協業する可能性なども含め、迅速な復旧を最優先するだろう」(Breidenbach氏)
Sibelcoは2024年10月4日に、「われわれは現在、米国ノースカロライナ州スプルースパイン(Spruce Pine)近郊の鉱山において、政府機関やサードパーティーとの協業による救助/復旧作業を進め、影響を緩和して可能な限り迅速に再開できるよう取り組んでいるところだ。Sibelcoの全ての従業員/請負業者の無事を確認しているが、操業の再開時期についてはまだ見通しが立っていない」と述べている。
Sibelcoは、「われわれは顧客企業との密接な連携により、要望を把握して、可能な限り早く製品出荷を再開できるよう計画を進めている」としている。
SemiAnalysisのアナリストであるJeff Koch氏によると、サプライチェーンは石英の在庫を3カ月分以上確保しているため、打撃を和らげることができるという。
Koch氏はEE Timesの取材で、「その期間内に生産を再開できる可能性が高い。もしスプルースパインで生産を再開できない場合は、代替鉱山や、品質の劣る石英の精製などで供給不足を補うことができる」と述べている。
Koch氏によれば、コストは高くつくが全ての生産ロスを補うことができる代替サプライヤーは、ほんの一握りしか存在しないという。こうしたメーカーには、中国のPacific Quartzや、ロシア キシュティム(Kyshtym)のRussian Quartz、ブラジル/カナダのHomerun Resourcesなどが挙げられる。
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