「高純度石英のサプライヤーは存在するが、ロシアにあるRussian Quartzの鉱山のように、地政学的には好ましくない場所で生産されていることも少なくない。ブラジルやカナダの鉱山は、高純度石英を精製可能な生の石英製品を供給するが、やはりスプルースパインから直接供給されるものよりもコストが高くなる」(Koch氏)
他のアナリストたちも、コストの問題を指摘している。
Breidenbach氏は、「高純度石英に関して、スプルースパインのような少数の供給源に頼るのは非常にリスクが大きい。この他の例として挙げられるガリウム/ゲルマニウムの場合、中国がサプライチェーンを支配しており、米国政府が解決策を見つけ出そうとしているところだ」と語った。
技術調査会社であるTechInsightsのバイスチェアマンを務めるDan Hutcheson氏によると、サプライチェーンは近年、打撃を何度か経験し、レジリエンスを強化しつつあるという。
Hutcheson氏はEE Timesに対し、「これまでにも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による操業停止や、住友化学のエポキシ樹脂工場の爆発事故、東日本大震災など、もっと深刻な災害はあったが、月間売上高には影響が及んでも、年間売上高成長率に重大な影響が及ぶことはなかった。ここで良い知らせとなるのが、前もって計画を立てるための時間が十分にあったという点だ。SibelcoとノルウェーのThe Quartz Corporation(TQC)は、ノースカロライナ州での鉱山操業を停止し、非常事態に備えていた。できるだけ多くの完成製品を事前に出荷していたのではないだろうか」と述べている。
ただしKoch氏は、「スプルースパインの高純度石英の生産が長期間停止した場合は、半導体チップの価格がごくわずかながら上昇する可能性がある」とも指摘する。「サプライチェーンの在庫には、少なくとも3カ月間の猶予がある。長期的には、スプルースパインの稼働が再開すれば、ベースライン価格に戻るだろう」(同氏)
Breidenbach氏は、「太陽電池を製造するFirst SolarやSolarEdgeのような企業も、単結晶太陽電池の製造を高純度石英に依存している」と指摘する。
「太陽電池業界では、より多くの高純度石英を必要とする高効率の単結晶技術へと移行していることから、何か混乱が生じれば、特に太陽電池製造量が最も多い中国において生産が遅れる可能性がある。太陽電池は、材料の純度に関しては半導体業界よりも柔軟性が高いため、影響はそれほど大きくないだろう」(Breidenbach氏)
同氏は、「スプルースパインの石英生産不足は、供給に影響を及ぼし、短期的には価格上昇を引き起こすとみられる」と述べる。
高純度石英は、シリコンウェハーの製造における基本的な方法であるCZ(チョクラルスキー)法にとって極めて重要であると、Breidenbach氏は指摘する。「GlobalWafers、SUMCO、Siltronicなどシリコンウエハーのサプライヤーを見ると、3〜5カ月分の在庫を比較的十分に備蓄しており、これにより短期的な供給中断を緩和できるだろう」
サプライチェーンの脆弱性は、半導体製造工場にとって依然として重要な懸念事項であるとKoch氏は述べる。「ヘリウムの不足は、過去10年間に2度、大幅なコスト上昇を引き起こした。現在、半導体製造工場は価格が安定している長期供給源に投資している。サプライチェーンの安定性を確保するためのさらなる支出が見込まれる」(同氏)
Breidenbach氏は、主要戦略として、単一の地域への依存度を低減するためにサプライヤーを地域的に分散させること、高純度石英やレアアースなどの重要な材料の在庫を十分に確保し、短期的な混乱に対応する“緩衝材”とすることなどを挙げた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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