ArmがQualcommに対して起こした訴訟の審理が始まる。どのような判決にしても、その結果はArmのエコシステム全体、引いてはIPビジネスを検討する多くの企業などにも影響を与えるだろう。
QualcommによるNuviaの買収から約3年、Arm/Qualcomm間での2年にわたる法廷闘争を経て、Armが起こした訴訟は、米国デラウェア州ウィルミントンの連邦地方裁判所で審理されることになった。この訴訟は最大1週間の証言の後に判決が下される予定で、その結果はいずれにせよArmエコシステム全体に影響を与えることになる。
争点となっているのは、Armのライセンシー(ライセンス使用者)が「Arm命令セットアーキテクチャ(ISA)」を活用したカスタムCPUコアを開発することを許可する「アーキテクチャライセンス契約(ALA)」の条項である。Armは、「QualcommがPCやスマートフォン、車載アプリケーション向けの最新プロセッサ『Oryon』の開発にNuviaの技術を使用しているが、NuviaにはALAに基づいて開発したIP(Intellectual Property)の権利を、買収によってQualcommに譲渡する権利はない」と考えている。一方、Qualcommは、「Nuvia ALAはプロセッサマイクロアーキテクチャや基礎となるプロセッサ設計に関係しておらず、Arm ALA契約はNuviaチームと開発した新しいプロセッサにも適用される」と考えている。
さらに、Qualcommは、ArmがALAを終了するのに時間がかかりすぎたと考えている。いずれにせよ、双方はNuvia ALAが侵害されたと主張している。今後は、契約と専門家の証言に従ってどちらが正しいのかを陪審員が決定することになる。
この訴訟には2つの矛盾する争点がある。1つは、IPを保護する権利、特にライセンシーによる使用と譲渡に関する権利で、2つ目は、買収者が買収した企業のIPと資産を利用する権利である。
Armは、QualcommがNuviaの技術を使用していると思われるSoC(System on Chip)の販売停止を求めている。具体的には、PCやスマートフォン、近日発売予定の車載用プラットフォーム「Snapdragon Cockpit」と「Ride」向けの最新の「Elite」シリーズSoCである。さらにArmは、QualcommがNuvia IPに関連するあらゆるものを破棄するよう求めている。一方、Qualcommは、独自のALAを含む既存のArmライセンスの下で事業を継続することを目指している。
この訴訟の結果は、直接的な当事者への影響に加えて、Armエコシステム自体、特にQualcommのSnapdragonプロセッサを搭載するPCに、さらに広範な影響を及ぼす可能性がある。Snapdragonは、Microsoft Windowsがサポートする唯一のArm互換プロセッサである。QualcommがPC向け「Snapdragon X Elite」プロセッサの販売を停止せざるを得なくなった場合、ArmベースのWindowsプラットフォームは存在しなくなる。
さらに、この訴訟の結果は、Armや他のIPベンダーによる将来のライセンス契約に影響を及ぼす可能性がある。定期的に買収されることが多い新興企業を含むライセンシーのビジネスモデルにも影響する可能性もあるだろう。
以下は、デラウェア州での訴訟に至るまでの経緯である。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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