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群雄割拠のチップレット 「理にかなった」戦略をとっているのは?この10年で起こったこと、次の10年で起こること(88)(1/4 ページ)

2024年、「チップレット」というキーワードがメディアで何度も取り上げられた。ただ、当然だかチップレット化が全てではなく、ベストなソリューションというわけでもない。今回は、2024年に発売された製品/プロセッサを分解し、チップレットが理にかなった方法で適用されているかを考察してみたい。

» 2025年01月14日 11時30分 公開
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 半導体は、微細化と、より小さな体積に収納することで信号伝搬の遅延時間を最短化できるとともに、信号伝搬に必要な充放電や駆動能力も削減され低消費電力を実現できる。10年以上前からプロセッサとメモリを1つのパッケージに収納するMCP(Multi CHIP Package)やSIP(Silicon In Package)、POP(Package On Package)が民生分野(主にスマートフォンやカメラ分野)、車載分野(主にIVI分野)に広く採用されてきた。別パッケージで作るものに対して2つ以上のシリコンを組み合わせてパッケージに収めるので、平置き、積層にかかわらず、体積は格段に小さいものになる。

 その分、パッケージ内の配線は複雑なものになっている(具体的にはパッケージ内の配線層数が増える、配線の幅やスペースが小さくなっているなどのコストアップ要因がある)。またビット拡張やチャンネル増加、電源補強などのためにパッケージの端子数も激増しており、パッケージ端子のボールサイズも劇的に小さくなっている。現在までに確認したパッケージの最多ボール数は7482個。急激なペースで端子数が増えている。このペースで行けば2025年〜2027年には1万ボール超えのパッケージも登場するかもしれない。

多くの「チップレット」が発表された2024年

 2024年にはチップレットがキーワードとして半導体関連のニュースなどに何度も取り上げられた。シリコンをいかに小さな体積に収納し、さらにスケーラブルに展開できるかが、チップレットの優位性だといわれる。ただし、シングルシリコンのままでも十分なもの、あるいは、市場実績が大きいSIPでも十分のものまでチップレットにしてシリコン面積を増やしてしまうこと、作業を増大化してしまうことも考えられる。今回は、2024年に発売された、多くのシリコンを1パッケージに収めたチップの解析結果を掲載する。

「Apple Vision Pro」と第10世代「Apple Watch」

 図1は2024年2月に発売された「Apple Vision Pro」のリアル画像(音声含む)処理プロセッサ「Apple R1」の様子である。右のように11個のシリコンが組み合わされるチップレット構造になっている。見かけ上は11個だが、分解すると回路面に電源を安定化させるためのシリコンキャパシターが埋め込まれていて、トータルで17個のシリコンが収納されている。合理的なシリコンパズルだ。プロセッサあり、多ビットのメモリあり、特性に寄与するキャパシターありと機能と性能をチップレット化することで実現しているわけだ。チップレット化することで小型化されVision Pro内に卒なく収まっている。

図1:2024年2月に発売された「Apple Vision Pro」のプロセッサ「R1」 図1:2024年2月に発売された「Apple Vision Pro」のプロセッサ「R1」[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート

 図2は、2024年9月に発売されたAppleの第10世代スマートウォッチ「Apple Watch Series 10」に搭載されたSIP(System In Package)のパッケージ内部の様子である。Appleは初代Apple WatchからSIP技術を用いており、10世代まで機能を増やしながらほぼ同じサイズにWatch機能を収めている。小さなものまでカウントすると内部には20個ほどのシリコンが入っている。通信、センサー、プロセッサ、メモリ、インタフェースなど機能はほぼ2〜3世代前のスマートフォン並みのものが、わずか500円玉サイズに収まっている。通信はLTE、UWB、Wi-Fi、Bluetooth、NFCとほぼ一般生活で使われるものは全て収まっている。主要機能のほぼ半分はApple製、Apple独自のシリコンだ。2019年にIntelのLTE広域モデム部門を買収したAppleは今や、通信半導体を網羅的に自社化する通信チッププレイヤーになっている。Apple独自の5G(第5世代移動通信)用半導体が2025年には製品に組み込まれる可能性は高い(ただしQualcomm製チップとの併用は続くものと思われる)。機能と性能のバランスから、Apple Watchにはチップレットを使う必要は全くない(見れば分かる)

図2:「Apple Watch Series 10」に搭載されたSIPのパッケージ内部 図2:「Apple Watch Series 10」に搭載されたSIPのパッケージ内部[クリックで拡大] 出所:テカナリエレポート
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