東北大学は、リチウムイオン電池正極から遷移金属イオンが電解液中に溶出する様子をリアルタイムで可視化する手法を開発した。この手法を用いて、電池を充放電する時にマンガン(Mn)が溶出する電圧や場所などを定量的に測定した。
東北大学多元物質科学研究所のHellar Nithya学術研究員らによるグループは2025年2月、リチウムイオン電池正極から遷移金属イオンが電解液中に溶出する様子をリアルタイムで可視化する手法を開発したと発表した。この手法を用いて、電池を充放電する時にマンガン(Mn)が溶出する電圧や場所などを定量的に測定した。
リチウムイオン電池は、電気自動車(EV)やスマートフォンなどさまざまな用途で用いられている。ただ、電池材料の分解や溶出などによって電池が劣化したり、安全性に問題が生じたりするなど課題もあった。特に、マンガン酸リチウム(LMO:LiMn2O4)などMn系正極では、Mnイオン(Mn2+)が溶出する機構に関して、まだ十分に解明されていなかったという。
研究グループは今回、EV用蓄電池材料などに広く採用されているスピネル型LMOおよび、その誘電体について調べた。LMO正極は4V以上で充放電すると容量が次第に減少する。これは、LMO正極から電解液へMn2+イオンが溶解するためである。この時、電解液から生成するフッ化水素(HF)が溶出を促進するともいわれているが、詳細は解明されていないという。
研究グループはこれまで、7Li核のMRI(磁気共鳴断層撮影法)を用いてリチウム電池内部のリチウムイオン分布を可視化し、リチウム電池の劣化診断技術を開発してきた。一方、医療分野ではガドリニウムなど常磁性イオンを含む造影剤を注射して、観察したい場所の画像コントラストを高め、MRI信号を増強する方法が用いられている。今回は、電解液のプロトンMRIを用い、間接的に溶出したMnイオンの時間・空間分布を可視化する方法を開発した。
実験では、東北大学多元物質科学研究所Central Analytical Facility(CAF)に設置された「Avance400NMR装置」(磁場9.4T)とマイクロイメージングプローブを用い、モデルリチウムイオン電池の電解液中にあるプロトンを対象に、1H MRIを測定した。モデル電池は、正極にスピネル型LMOを、負極には金属リチウムをそれぞれ採用している。
電解液は2種類を用意した。一般的な「ヘキサフルオロリン酸リチウム溶液(1M LiPF6 EC:DMC)」と、ドイツのミュンスター電気化学エネルギー技術研究所が開発した「リチウムビス(トリフルオロメタン)−スルホニルイミド(LiTFSI)塩とメチル-3-シアノプロパノエート(MCP)」電解液である。
ヘキサフルオロリン酸リチウム溶液を用いた電池の充放電挙動は、充電電圧が3V台だと画像に大きな変化はない。ところが、4Vを越え4.15V付近からLMO正極の近傍において信号強度が増加し、4.48V付近からは急激に増加した。この電位付近で30μM程度の微量なMnが溶出していることが分かった。
一方、リチウムビス(トリフルオロメタン)−スルホニルイミド(LiTFSI)塩とメチル-3-シアノプロパノエート(MCP)電解液を用いた実験では、LMO正極からのMn溶出が抑制されていることを確認した。
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