メディア

三拍子そろった好材料 次なるパワー半導体「二酸化ゲルマニウム」の可能性FLOSFIA出身CEOの再挑戦(1/2 ページ)

SiCやGaNのさらに次の世代のパワー半導体材料として期待される二酸化ゲルマニウム。その社会実装を目指す立命館大学発のスタートアップ、Patentixで社長兼CEOを務める衣斐豊祐氏と、Co-CTO(共同最高技術責任者)を務める金子健太郎氏に話を聞いた。

» 2025年02月27日 13時30分 公開
[浅井涼EE Times Japan]

 パワー半導体の高性能/高耐圧化が進む中、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)をはじめとする次世代パワー半導体材料への注目が高まっている。SiCやGaNのさらに次の世代のパワー半導体材料として期待されるのが二酸化ゲルマニウム(GeO2)だ。GeO2パワーデバイスは、電力損失をシリコン(Si)の4000分の1、SiCの10分の1に低減できるという。

 GeO2にはどのような可能性があるのか。GeO2の社会実装を目指す立命館大学発のスタートアップ、Patentixで社長兼CEOを務める衣斐豊祐氏と、Co-CTO(共同最高技術責任者)を務める立命館大学 総合科学技術研究機構 教授の金子健太郎氏に話を聞いた。

性能/コスト/実現性の三拍子そろった材料

――次世代パワー半導体向けに注目を集める材料は多くありますが、その中で特にGeO2に着目したのはなぜですか。

金子健太郎氏(以下、金子氏) GeO2はバンドギャップがSiCやGaNを上回ることから高性能が期待でき、基板コストも比較的低く、p型/n型の両伝導が可能と予測されているためだ。

 前提として、Siが市場の大部分を占めてきた半導体の世界で、20〜30年かけて特定の領域にSiCやGaNが食い込んできたのが現在の状況だ。しかし、SiCは価格が下落してきたことで利益が上がりにくくなり、企業は先行投資としてSiCに勝る次の材料を探し始めている。

 実用化に重要な条件は3つあり、1つ目は基板からデバイス製造までのトータルコストが低いこと、2つ目はバンドギャップが大きいこと、3つ目はpn両型伝導が可能であることだ。pn両型伝導は、広い市場を対象にしたデバイスを作るには欠かせない条件だ。この3つの条件を満たさない材料はアカデミアの研究対象にとどまってしまう。

 次世代半導体材料として注目される材料は多数あるが、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)や窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)は基板が高価で、事業化が難しい。酸化ガリウム(Ga2O3)は理論上、P型半導体が作製できないことが分かり、活用できる領域はあるもののマス市場向けには減速してしまった。ダイヤモンドは物性では「絶対王者」といえるが、N型半導体が作製できないという致命的な欠点がある。

 一方、GeO2は3つの条件をなんとか満たしていて、知名度こそ低いが可能性は非常に高いと考えている。

FLOSFIA出身のCEOが「再チャレンジ」

Patentix 社長兼CEOの衣斐豊祐氏 Patentix 社長兼CEOの衣斐豊祐氏 提供:Patentix

――金子氏はGa2O3半導体の開発を手掛けるFLOSFIAの共同創業者でした。衣斐氏もFLOSFIAの一員でしたが、どうしてPatentixを立ち上げるに至ったのでしょうか。

金子氏 FLOSFIAの立ち上げ後、前述の通りGa2O3ではP型半導体が作製できないことを実験で確認したため、Ga2O3を超える材料としてGeO2に着目した。

 そのころ米国ミシガン大学でもGeO2に関する研究があったが、その研究ではまだ薄膜の成長速度が1時間当たり10nmと低く、制御性も悪かった。GeO2はルチル構造が最も安定性が高いがアモルファス相が混ざりやすく、かつ真空状態で気体である酸化ゲルマニウム(GeO)が脱離しやすいことから、薄膜の結晶成長が難しい。

 対して私の研究室で研究していた「ミストCVD法」では、大気開放下で基板状に薄膜を作製するため、GeOの脱離を防ぎ、成長速度を改善できた。アカデミアの研究を事業化するとなると困難も多く、慎重に進めるべきだと考えているので、当初は事業化を目指していたわけではなかったが、衣斐氏と再会して「面白そうだからやってみよう」という話になり、創業につながった。

衣斐豊祐氏(以下、衣斐氏) 日本の大学では、半導体材料に関する優れた基礎研究が多く行われているが、社会実装には至らないことが多い。事業リスクの高さから大企業が取り組むことは難しいため、ここはスタートアップの役目だ。米国のスタートアップではリスクを冒して製品開発から社会実装までやってのけ、一気に世界でシェアを拡大する例があるが、日本ではなかなかそうならない。FLOSFIAでそれを目指したが難しい部分があったので、Patentixで再チャレンジしているところだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.