今回は「2.2.2.2 バイオセンサ」の内容から、バイオセンサの組み立て技術をご紹介する。
電子情報技術産業協会(JEITA)が2年ぶりに実装技術ロードマップを更新し、「2024年度版 実装技術ロードマップ」(PDF形式電子書籍)を2024年6月に発行した。既に6月11日には、ロードマップの完成報告会を東京で開催している(本コラムの第462回で既報)。
本コラムではこのほど、ロードマップの策定を担当したJEITA Jisso技術ロードマップ専門委員会の協力を得て、前回の2022年度版に続いて今回の2024年度版も概要をご紹介できるようになった。この場を借りて同委員会の皆さまに深く感謝したい。
上記の経緯を経て、本コラムの第482回から、2024年度版のロードマップ概要をシリーズで報告してきた。前回からは「2.2.2 バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーの融合」の内容紹介を始めている。前回は「2.2.2.2 バイオセンサ」の前半をご報告した。バイオセンサの動作原理と、「イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET:Ion Sensitive Field Effect Transistor)」を変換素子(トランスデューサ)とするバイオセンサの事例を述べた。
なおバイオセンサは、検出対象(Analyte)に特異的に反応するバイオ分子(Probe)と、反応(物理的あるいは化学的性質の変化)を電気信号に変換する信号変換素子(Transducer)で構成される。今回は「2.2.2.2 バイオセンサ」の内容から、バイオセンサの組み立て技術をご紹介する。
バイオセンサの組み立て技術(実装技術)は、プローブ(バイオ分子)を製造する工程、信号変換素子(センサ素子)を製造する工程、プローブと信号変換素子を一体化する工程、一体化したバイオ分子とセンサ素子をモジュール化(パッケージ化)する工程で成り立っている。
上記の中ではプローブと信号変換素子を一体化する工程が特に重要だ。センサ素子の表面とバイオ分子は多くの場合、直接つなぐことができない。このため、「足場分子(scaffold molecule)」と呼ぶ有機分子を介してバイオ分子とセンサ素子をつなぐ。
足場分子の形状は細長く、両端に必要とされる機能を持たせている。一方の端は、センサ素子の表面と結合して船舶のアンカー(いかり)と同様に働く。すなわち、足場分子の一端をセンサ素子の表面に固定する。もう一方の端は、バイオ分子(プローブ)あるいはブロッキング分子(不要な結合を阻害する分子)とクロスリンク反応(架橋反応)によって結合する。
基本的な工程は、センサ素子表面に足場分子のアンカー側を結合させ(足場分子固相化工程)、次に足場分子の反対側とバイオ分子を結合させ(クロスリンク工程)、最後に洗浄工程と進む。全て液相中のウエットプロセスである。
アンカーと足場分子固相化の例を以下に示そう。グラフェンやカーボンナノチューブなどの表面には、「ピレン(pyrene)」がアンカーとして使われる。ピレンは4つのベンゼン環が平面状につながった構造をしており、グラフェンおよびカーボンナノチューブの表面とはππ相互作用で結合する。金や銀、銅などの金属表面には、「チオール(thiol)基」がアンカーとして使われる。水素と硫黄の結合部から水素が分離して硫黄が金属表面と結合する。
半導体製造で一般的な二酸化ケイ素(SiO2)や窒化ケイ素(SiN)などの表面には、「アルコキシシラン(alkoxysilane)基」がアンカーとして使われる。アルコキシシランのケイ素と酸素、有機基の結合から加水分解によって有機基が分離し、ケイ素と酸素、表面のケイ素によるシラノール結合を形成する。
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