2024年に過去最高の市場規模を記録した世界半導体市場。ただし、半導体分野を取り巻く状況は世界経済と国際情勢の両面で不安定であり、先行きを見通しにくくなっている。そうした中、Omdia シニアコンサルティングディレクターの南川明氏は、日本の半導体/エレクトロニクス産業には追い風が吹いていると語る。
半導体世界市場は、低迷した2023年を乗り越え、2024年は過去最高の規模を再び記録した。一方で、不透明な世界経済や国際情勢から、先行きはますます不透明になっている。業界アナリストはどう見ているのか。Omdia シニアコンサルティングディレクターの南川明氏に聞いた。
――米国では第2次トランプ政権が発足して、2カ月近くがたとうとしています。毎日のように関税に関するニュースを聞きます。半導体業界の反応はどうですか。
南川明氏 トランプ大統領は関税をディール(取引)のカードとして使っているので状況を見極めにくく、特に(米国にとっての)外資系の半導体関連企業は以前よりも米国での投資に慎重になっている。米国で投資を拡大する理由はCHIPS法の補助金が目当てだったが、トランプ政権はCHIPS法に批判的だとされていることも背景にあるだろう。
あるメモリメーカーは、日本に工場を建設する場合、4割の補助金を得て10年間操業すると、韓国で生産する場合と同等程度の利益になり、米国に建設する場合、補助金は少なくとも5割を得られなければ難しいと試算した。米国は人件費も物価も高騰しているので、さらに多くの補助金が必要になる可能性がある。
米国での投資は慎重にならざるを得ないが、それは日本にとってはよい状況になっている。実際に、日本への投資を検討するという話がここ最近、急増している。
――米中対立についてはいかがでしょうか。分断解消の動きは全く見えません。
南川氏 米国の対中規制はますます強くなっていて、今後もさらに強まるとみている。米国の議員が超党派で作ったレポート(提言書/2023年12月発行)からも、それははっきり読み取れる。レポートのタイトルは「Reset、Prevent、Build」だ。”Reset”では、例えば貿易をリセットし、中国からの輸入を減らす。”Prevent”は(中国への)技術流出を防ぐ。”Build”は中国に代わる新しい貿易相手を見つける。これが米国としての基本的な考え方ではないか。米国企業からは反対や懸念が出るかもしれないが、国としてはその方向に明確に舵を切っている。
――米国は、中国が半導体技術力でキャッチアップできないように厳しい規制をかけてきました。ただ、「DeepSeek」のような技術も出てきましたし、規制が狙い通りに奏功しているとは言い難い気もします。
南川氏 DeepSeekが発表されて、米国のビックテックは、中国の技術力に脅威を感じたはずだ。実際にそういう反応を聞いている。蒸留という手法を用いて、FP8でもかなり高い精度で推論を実行できるのは、成果としてはやはりすさまじい。これを受けて米国はAIへの投資や普及をさらに加速する姿勢を見せている。
中国に実力があるのは間違いない。何年か前にシリコンバレーで活躍していた中国人が母国に帰り、そこで力を発揮している。知見もあり技術力の高いエンジニアたちが相当数いるのだ。ただ、ここで一度技術流出を断ち切れば、今後5〜10年の間に差が開くと米国は考えている。中国経済は悪化の一途をたどっていることもあり、「中国は当面米国には追い付けないと」米国はみているのではないか。
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