京都大学の研究グループは、溶液塗布プロセスを用いて、「水素結合性有機薄膜トランジスタ」を開発することに成功した。溶解性に優れた熱前駆体を用いる薄膜作製法を採用することで、従来の課題を解決した。
京都大学の研究グループは2025年5月、溶液塗布プロセスを用いて、「水素結合性有機薄膜トランジスタ」を開発することに成功したと発表した。溶解性に優れた熱前駆体を用いる薄膜作製法を採用することで、従来の課題を解決した。
有機半導体は、π共役系有機分子の集合体からなり、簡便な溶液塗布法で安価にデバイスを実現できる材料の1つである。これまでは主に、「ファウンデルワールス力」を駆動力とした半導体薄膜が用いられてきた。これに対し、結合方向が明確で精密な超分子構造制御を可能にする「水素結合」も活用されているが、有機溶媒への溶解性が極めて低い。このため、溶液塗布法を用いて半導体薄膜を作製するのが難しかったという。
研究グループは今回、高溶解性の熱前駆体を用いた「熱前駆体法」を取り入れ、テトラベンゾポルフィリン(BP)にアミド基とアルキル鎖を導入した難溶性化合物を有機薄膜トランジスタに応用した。
具体的には、BPの可溶性前駆体を合成し、そのクロロホルム溶液を基板上に滴下。その後溶液を乾燥させて前駆体薄膜を作製した。この前駆体薄膜を加熱することで多結晶性BP薄膜へと熱変換。さらに、熱電極を蒸着してトランジスタ素子を作製した。
多結晶性薄膜は、単結晶に比べると電荷移動度が低下するのが一般的である。こうした中で今回は、約0.25cm2V-1s-1というホール移動度を実現した。これはアモルファスシリコンに匹敵する値だという。結晶境界において、水素結合ネットワークが「のり」のような役割を果たし、連続的な電荷輸送経路を確保できたからだとみている。しかも、水素結合ネットワークによって、トランジスタ素子は250℃に加熱した後もデバイス性能を維持していることを確認した。
X線構造解析と多角入射分解分光法を用い、BP薄膜内の分子配向と分子間相互作用を詳しく調べた。この結果、水素結合によりBP分子がねじれて積層した「ツイスト構造」となり、2次元方向に集積していることが分かった。ホール移動度が比較的高くなった要因は、この集合構造によるものとみている。
今回の研究成果は、京都大学化学研究所の山内光陽助教、上野創博士後期課程学生、山本恵太郎助教、水畑吉行准教授、山田容子教授らによる研究グループと、同研究所の塩谷暢貴助教、松田大特定研究員、長谷川健教授らによるものである。
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