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反強磁性体磁化ダイナミクスによるスピン流を検出テラヘルツ波をスピン流に変換

名古屋大学の研究グループは、福井大学や東北大学、京都大学および東邦大学と共同で、反強磁性体の磁化ダイナミクス(磁化の回転運動)から生じるスピン流の検出に成功した。さらに、反強磁性体における「スピンポンピング効果」によって、テラヘルツ波がスピン流に変換される機構についても解明した。

» 2025年01月07日 15時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

スピントロニクス技術とテラヘルツ技術を融合したデバイス開発へ

 名古屋大学の研究グループは2024年12月、福井大学や東北大学、京都大学および東邦大学と共同で、反強磁性体の磁化ダイナミクス(磁化の回転運動)から生じるスピン流の検出に成功したと発表した。さらに、反強磁性体における「スピンポンピング効果」によって、テラヘルツ波がスピン流に変換される機構についても解明した。

 テラヘルツ波はbeyond 5Gなどでの利用が期待されている。また、反強磁性体はテラヘルツ波に応答する磁性材料として注目されている。その理由の1つとして「スピントロニクスとの親和性」を挙げる。反強磁性体に内在するスピン自由度とテラヘルツ波との相互作用を利用すれば、スピントロニクス技術とテラヘルツ技術を融合した新規デバイスの開発につながるとみられている。

 研究グループは今回、磁化ダイナミクスによるスピン角運動量が、伝導電子へと移行されてスピン流を生成するスピンポンピング効果に着目した。スピンポンピング効果の発現機構はこれまで、「強磁性体」において解明されていたが、「反強磁性体」ではその効果が実証されていなかった。

 研究グループによれば、強磁性体におけるスピンポンピング効果理論に従えば、反強磁性体で生じるスピン流「ISpump」は、2つの式で表すことができるという。なお、式の中にある「m1」および「m2」は反強磁性体のそれぞれ反平行にそろった磁気モーメント、「G↑↓」はスピンポンピング効果の効率を決定するパラメータである。

スピン流を記述する式[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他 スピン流を記述する式[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他

 今回の研究では、反強磁性体「α-Fe2O3」における2つの磁化ダイナミクスモードに着目。これらのダイナミクスから生じるスピン流を検出し、反強磁性体におけるスピンポンピング効果の発現機構を解明することにした。

 具体的には、Al2O3(0001)単結晶(酸化アルミニウム単結晶)基板上に作成したα-Fe2O370m/Pt 5nm二層膜に、135〜201GHzのテラヘルツ波を照射。これによりα-Fe2O3の磁化ダイナミクスを励起し、スピンポンピング効果によって生じたスピン流を、Pt(プラチナ)層に生じるスピン電圧として検出した。

 α-Fe2O3の磁化ダイナミクスモードとしては、正味の磁化(M=m1+m2)が円を描くように回転運動するモード「ダイナミクスモード#1」と、Mが直線的に伸縮するモード「ダイナミクスモード#2」がある。ダイナミクスモード#2では、Mの時間変化(dM/dt=d(m1+m2)/dt)とM自身の方向は常に平行である。このため、上記「式2」によればスピンポンピング効果で生じるスピン流(ISpump)はゼロとなる。ところが、「式1」を想定するとISpumpは必ずしもゼロとはならない。

α-Fe2O3における2つの磁化ダイナミクスモード[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他 α-Fe2O3における2つの磁化ダイナミクスモード[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他

 透過吸収測定では、α-Fe2O3における2つの磁化ダイナミクスモードを観測した。2つのモードはそれぞれ異なる温度依存性を示した。一方、スピンポンピング測定では、温度依存性がなくスピン電圧に1つのピークしか観測されなかった。これらはダイナミクスモード#1によるものであることが分かった。これらのことから、ダイナミクスモード#1からはスピン流が生じ、ダイナミクスモード#2から生じるスピン流はゼロであることを確認した。

スピンポンピング測定と透過吸収測定の結果[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他 スピンポンピング測定と透過吸収測定の結果[クリックで拡大] 出所:名古屋大学他

 今回の研究成果は、名古屋大学大学院工学研究科の森山貴広教授、服部冬馬博士前期課程学生、夛田圭吾学部生らによる研究グループと、福井大学遠赤外領域開発研究センターの石川裕也講師、藤井裕教授、山口裕資准教授、立松芳典教授、東北大学金属材料研究所の木俣基准教授(当時)、木村尚次郎准教授、京都大学化学研究所の菅大介准教授および、東邦大学理学部の大江純一郎教授らによるものである。

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