近年、AIデータセンターへの電力需要増加、再生可能エネルギー供給の必要性などを背景として直流電力網の重要性が高まっている。Friedrichs氏は「これに伴って、特にブレーカー技術の変革も求められている。直流電力網では、機械式ブレーカーはもはや選択肢ではない。高速かつインテリジェントなブレーカー技術が必要であり、当社は新たなSiC JFET技術によってこの課題に対応できる」と強調。新開発のSiC JFET「CoolSiC JFET」を紹介した。
第1世代品であるCoolSiC JFETは750V品と1200V品を用意している。RDS(on)は1.5mΩ(750VBDss)および2.3 mΩ(1200VBDss)と極めて小さく、導通損失を大幅に低減。バルクチャネルに最適化されたSiC JFETは、短絡およびアバランシェ条件下で高い堅牢性を発揮する。
また、上述のQ-DPAKパッケージを採用していて、並列化が容易でスケーラブルな電流処理をサポート。柔軟なレイアウトと統合オプションを備えたコンパクトな高出力システムを実現するとしている。また、受動冷却のディスクリート設計によって、SSCBの電流定格を最大63Aまで拡張できるという。
同社はCoolSiC JFETの堅牢な短絡機能、線形モードでの熱安定性、正確な過電圧制御機能などによってSSCBやAIデータセンターホットスワップ、eFuse、モーターソフトスターター、産業用安全リレー、車載用バッテリー切断スイッチなど、幅広い産業および車載用途で信頼性が高く効率的なシステム性能が実現できるとしている。
さらにCoolSiC JFETは、同社独自の接合技術「.XT」接合技術も採用。「産業用電力システムによく見られるパルス状および周期的な負荷条件での過渡熱インピーダンスと堅牢性が大幅に向上する」とも強調している。
Friedrichs氏は「高電圧ソリッドステート配電においては、オン抵抗が低く低損失かつ、高いアバランシェ耐性が必要だ。その両方のパラメーターにおいて、JFETは優れた性能指標を備えている。従来のSiC MOSFETのTO-247品10個をQ-DPAKパッケージJFETに置き換えれば、同性能が実現できる」と説明していた。
CoolSiC JFETファミリーは2025年後半にエンジニアリングサンプルを提供、量産は2026年に開始する予定だ。
Infineonはさらに、トレンチベースのSiCスーパージャンクション(TSJ)技術を導入したSiC MOSFETの開発も発表。SiCとシリコンベースのスーパージャンクション技術(CoolMOS)におけるInfineonの25年を超える経験を活用し、トレンチ技術とスーパージャンクション設計の利点を融合。SiC MOSFET G2と比較し、RDS(on)×Aを最大40%低減できるという。
同社はこのSiCのTSJ技術によってディスクリート、モールド、フレームベースのモジュールやベアダイなど、さまざまなパッケージタイプを含むCoolSiC製品ポートフォリオを段階的に拡大する方針。アプリケーションも車載と産業の両方を対象とする。
最初の製品は、1200Vベースで車載用トラクションインバータ用途向けに設計された同社の「ID-PAK」パッケージ採用品を供給予定だ。Friedrichs氏は「このパッケージとスーパージャンクション技術を組み合わせることで、最大800kWの電力レベルまでスケーラブルに対応可能になる」と説明していた。また、短絡耐性を損なうことなく、メインインバーターの電流能力を最大25%向上させられるという。
ID-PAK 1200Vの初期サンプルは既に特定の自動車ドライブトレインの顧客向けに提供されていて、SiC TSJベースのID-PAK 1200Vパッケージの量産は2027年に開始する予定だ。
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