車載用途も、AIサーバと同様に今後大きな成長が見込まれ、GaNパワー半導体市場のけん引役となると注目されている。ロームは車載用GaNパワーデバイスでは開発と量産に関してTSMCとの戦略的協業を発表していて、2025年8月にサンプル出荷を予定している。対応するゲートドライバーは既に存在するほか、ワンパッケージ化した製品も用意。山口氏は「車載やサーバでは400Vか800Vシステムのどちらに行くのかといった議論があるが、われわれさまざまなデバイスがあり、組み合わせていろいろな提案ができるというレベルに来ている」としている。
PCIMで展示していたのは、台湾に本社を置く電源メーカーであるデルタ電子と開発した6.6kW OBCの試作品だ。ロームとデルタ電子は2022年にGaNパワーデバイスの開発/量産に関して戦略的パートナーシップを締結していて、650V耐圧GaN HEMTの共同開発をはじめさまざまな技術交流の成果を示してきた。
今回の試作品は、TOLT(上面冷却)パッケージの650V GaNデバイスを採用して設計されたもので、これによって従来のデルタ電子の製品と比較して重量を40%減少、体積を25%減少するという。
山口氏は「パートナーシップを締結し、システムレベルでこれまで協業してきたのがデルタ電子だ。担当者レベルではなく、未来を見据えたメーカーの経営層と手を組むことで、スピード感をもって進めることができている」と説明していた。ロームは2025年3月にはマツダとも車載GaNパワー半導体搭載品の共同開発を発表するなど、協業体制の構築を強化。GaNの普及に向けて加速している。
なおロームが協業し、650V品の製造を委託しているTSMCは、2027年7月までにGaNファウンドリー事業から撤退すると決定したことが明らかになっている。
この点についてロームは「協業体制の維持、深化に向けて、引き続き互いの強みを融合させることで市場/顧客ニーズに適切に対応していく。将来的な(2027年以降の)開発・生産体制についても、さまざまな可能性を協議、検討している」とコメント。将来的な対応としては、一般的には自社生産への切り替えるか、新たな委託先の開拓が考えられるが、「2027年に向けて市場、顧客ニーズに対応しつつ、ロームにとって最良となるよう、あらゆる可能性を排除せず、検討していく」と述べるにとどめている。
PCIMの会場では、同社の第4世代SiC MOSFETを採用したSchaefflerのトラクションインバーターなど、SiC製品も数多く展示していた。
ロームは2024年6月に、xEV用のトラクションインバーター向けで、2in1仕様のモールドタイプSiCパワーモジュール「TRCDRIVE pack」を発表。トラクションインバーターは、xEVにおける各アプリケーションの市場の大半を占める「車載SiCの主戦場」であり、同製品によって市場でのシェア拡大に向けた取り組みを本格化した。
2024年11月に開催された欧州最大規模のエレクトロニクス展示会「electronica 2024」では、同製品を初採用したフランスの自動車部品大手Valeoのインバーターを初公開していた。
SiCパワーデバイス事業本部 SiCパワーモジュール事業部 統括課長である林健二氏は「TRCDRIVE packの反響は良く、これまで話ができていなかったような顧客も増えてきて、手応えを感じている。モジュールは競合もイミテーションしてきていて、その価値も間違いないことが分かっている」と強調。そのうえで、同モジュールを拡販する中で出てきた顧客の声を反映し、電極の空間距離を長くしたり、センシングの端子を増やしたり、ピンの精度を向上させたりといった改善も実施。この新モデルについても、既に採用が決定していて2027年にも量産開始予定といい、シェア拡大に向けた着実な取り組みを進めているという。
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