製造分野におけるこのような構造的変化をさらに加速させているのが、地政学的紛争による深刻な物理的サプライチェーン危機だ。米国とイスラエルが2026年2月に、イラン指導部をターゲットとした軍事作戦「Operation Epic Fury(オペレーション・エピック・フューリー)」を開始したことで、即座にペルシャ湾全域で報復攻撃が発生した。イランのドローン/ミサイル攻撃によって、世界のヘリウム供給全体の約3分の1を占める生産拠点である、カタールのラスラファン工業地区(Ras Laffan Industrial City)が稼働停止に陥った。
メモリ最大手であるSamsungとSK hynixの本拠地である韓国は、これまでヘリウム全体の約65%をカタールから調達しているため、最も大きな影響を受けている国だ。現在、ホルムズ海峡が西側の商船に対して閉鎖されたために、ヘリウムの供給が停止し、製造工場では緊急時配給が行われる事態となった。
Capital EconomicsのグループチーフエコノミストであるNeil Shearing氏は、このような依存の脆弱性について強調し、「今回の紛争が長引くほど、この地域の重要原材料が、グローバルサプライチェーンにとって深刻な問題になっていくだろう」と指摘する。
GartnerのシニアディレクターアナリストであるCori Masters氏は、米国EE Timesが2026年3月に行った取材の中で、同様の見方について繰り返し述べ、「中東紛争に伴う緊張の高まりによって、ハイテクサプライチェーンに間接的/直接的な混乱リスクが生じている。中東は、ハイパースケールインフラの成長をサポートする重要なシステムの基盤となる存在だからだ」と警告する。
不確実性が世界市場に重くのしかかり、中東からの輸入に依存している大手半導体メーカーの企業価値に直接的な影響が及んでいる。Quantum Strategyのプレジデントを務めるDavid Roche氏は、このボトルネックの深刻さについて「これは技術やヘルスケア、科学などの分野全体に及ぶ、代替が利かない重要原材料の危機である。中でも、直ちに対応すべき問題の中心に置かれているのが、半導体製造分野だ」と述べる。
米国の投資会社Wedbush Securitiesの技術調査部門担当グローバルヘッドであるDan Ives氏は、金融市場の利害関係について強調し、「技術投資家たちが絶対に聞きたくないのが、『長期化』という言葉だ。もし現在のイラン情勢が5月まで長引けば、業界は、AIの発展に不可欠な重要鉱物をめぐる深刻なサプライチェーン問題に直面するだろう」と主張する。
2026年が進むにつれ、世界の技術分野を定義する高度に最適化された製造モデル「ジャストインタイム(just-in-time)」が、地政学的なサプライチェーンの混乱と急増するAI需要によって崩壊したという事実は、自明のことになっている。半導体業界はそれに対応すべく、鉱物をめぐる覇権とサプライチェーンのレジリエンスを確立する方向へ移行し、無駄のない在庫管理よりも現地での原材料確保を優先している。
大手プレイヤー企業は生産能力を拡大すべく、数千億米ドル規模を投じて米国や同盟国で新しい製造工場を建設しているが、このような長期的な巨大プロジェクトの商業生産量が本格的に増大するようになるのは、2027〜2028年頃となる見込みだ。
技術業界はこの先2026年の間、厳しいゼロサム環境をくぐり抜けていかなければならない。AIデータセンターに割り当てられるシリコンウエハーは全て、コンシューマーエレクトロニクス市場に供給されずに奪われたものであり、今後多くのデバイスの価格決定や供給、性能などが恒久的に再形成されていくことになるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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