第1部で述べたようにLED照明は、エネルギ変換効率の向上を背景に、白熱電球や蛍光灯といった既存の照明光源を置き換えていく見込みである。しかし、数多くの利点を有するLED照明にも課題がある。対象物の色の再現性を表す「演色性」が十分でないことや、LEDチップが発生する熱をうまく逃がさなければ寿命が極端に短くなってしまうことだ。
これらの課題の解決に向けた取り組みも着々と進む。演色性の課題は紫色(または近紫外線)LEDチップを活用することで解決が図れる。紫は波長がおよそ400nm以上、近紫外線は波長が400nm以下の紫外領域のうちでも300n〜400nmと長い領域である。近紫外線LEDは、これまで殺菌用途や紙幣検査向けセンサー、樹脂硬化用光源といった限られた分野に使われてきた。今後は、照明分野にも用途が拡大する。
「イルミネーションなどのように光源からの光を直接『見る』場合と、照明光として対象物を『照らす』場合では、光源に求められる性質は大きく異なる。照明用途では、対象物の色を違和感なく見せることが必要だ」(山口大学大学院研究特任教授を務める田口常正氏)。
第1部で述べたように照明器具には、明るさが適切であることや明るさに極端な「むら」が無いことなどが必要だ。だが同氏が説明するように、求められる特性はこれだけではない。日中の太陽光下と同様に、対象物そのものの色を再現させる「演色性」が高いことが必要である。光を直視したときには同じ色に見える光でも、演色性が違えば、対象物を照らしたときの色の見え方は大きく異なる。照明器具では当然のことながら、りんごであれば赤色、人物であれば肌の色といったように、対象物そのものの色を正確に表現することが求められる。
とりわけ、化粧品や衣服、生鮮食料品を扱う各種商業施設向けや、美術館や博物館などの展示施設向けでは、演色性が高くすべての色味がはっきりと見えることが重要である。商品の見え方が売れ行きにつながるからだ。一方、展示品では色そのものに意味があることが多いため、色合いを正確に表現することが求められる。
演色性を高める鍵は、照明の放射光の発光スペクトルにある。可視光全域で連続してスペクトル強度が高い「連続スペクトル」が求められる。例えば、700nm前後の赤色領域のスペクトル強度が弱ければ、りんごのように赤いものを照らしたときの色合いがやや灰色味を帯びて色あせてしまう(図1)。
ところが、現在照明用に使われる白色LEDのほとんどは、この発光スペクトルに難がある。青色LEDチップに黄色蛍光体を組み合わせているためだ(図2)。このタイプの白色LEDでは、青色LEDチップが放射した青色光と、この青色光で黄色蛍光体を励起して得た黄色光の混色で白色を得る。青色と黄色は補色の関係にあるために、光は確かに白く見える。しかし発光スペクトルは、青色LEDチップの発光波長である470nm前後と、黄色蛍光体が放つ光の波長である570nm前後のスペクトルにピークがあり、緑色と赤色の領域のスペクトル強度が低い。緑色は目の視感度が高いために比較的問題とならないものの、波長が700nm前後の赤色領域では演色性を大きく劣化させる。
これに対して、紫色(または近紫外)LEDチップを使えば、およそ400nmから700nmを越える可視光全域にわたって極端な山や谷の無い連続スペクトル強度が得られる。紫色(または近紫外線)の放射光を使って、赤色/緑色/青色(RGB)という3種類の蛍光体を励起して、RGBそれぞれのスペクトルを有する光の混色で白色を得るからだ。
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