「白色LEDの未来は、非常に『明るい』。全ての光源がLEDに置き換わるのは、時間の問題だ」と米University of California, Santa Barbara(UCSB)の材料物性工学部の教授である中村修二氏が言うように、白色LEDを光源に使った照明が広く普及する道筋が明確に見えてきた。白色LEDは、消費電力が低い「エコ」な光源として、以前から注目されてきたものの、照明として使うにはいくつかの課題があった。課題が解決されつつあることで、次世代照明としての位置を不動のものとしている。
現在、照明に使われている光源は、主に白熱電球と蛍光灯である。これらに対するLEDのメリットは明確だ(図1)。照明器具のタイプによって異なるものの、同じ明るさ(光束)の白熱電球に比べて消費電力が1/10〜1/5と大幅に低い。例えば、消費電力が90W白熱電球と同じ明るさのダウンライト型白色LED照明の消費電力は14W程度である。一方、蛍光灯に対しては、有害物質であるHg(水銀)を含まないというメリットがある。
LEDの特長はこれだけではない。寿命が長いことや点灯特性が優れていること、照明設計の自由度が高いことなどがある。LED照明推進協議会の資料によれば、LED照明器具の寿命は光束が初期の70%になるまでの時間で定義する。LED照明器具の寿命は、一般的な宅内向けの場合、4万時間に達する。これに対して、白熱電球の寿命は1000〜2000時間程度、蛍光灯の寿命は6000〜1万2000時間程度である*1)。
点灯特性が優れていることは具体的には、−20〜80℃という温度範囲で明るさが大きく変化しないことや、スイッチを入れた後に数100ns以下の時間で瞬時に点灯すること、点灯と消灯を繰り返しても寿命が短くならないことを意味する。蛍光灯と比べた際の大きな特長だ。また、LED照明器具に使われるLEDそのものが小さいため、小型・薄型の器具を比較的設計しやすい。例えば、商品を並べる陳列棚のわずかなスペースに合わせた照明などで生きる。
そもそも照明器具には、明るさが適切であることや明るさに極端な「むら」がないことなどが求められる。例えば、日本規格協会(JIS)では、学校の教室では200〜750lx(ルクス)といったように推奨照度を規定している。白色LEDを使った照明器具は、基本的にこれらの条件を満たす。これまで普及を促す上での課題とされてきたのは、エネルギの変換効率が低いことや価格が高いことだ。これらの課題も解決されつつある。
詳しく説明しよう。エネルギ変換効率とは、入力した電気エネルギに対して、どれだけの光エネルギが出力されるかを表した値である。投入した単位電力当たり、出力される光束(明るさを表す指標)で表し、単位はlm/W(ルーメン毎ワット)である。この値が大きければ、同じ明るさの照明を、より低い消費電力で実現できる。LED照明器具の変換効率は、2009年3月時点の業界最高レベルで、光源部面積が広いタイプで84lm/W、光源部面積が小さいタイプでも80lm/Wに達する(図2)。
これまでは白熱電球の変換効率である10〜15lm/Wに比べると十分に高かったものの、直管型蛍光灯の90〜110lm/Wや電球型蛍光灯の60〜80lm/Wに比べると低かった。LED照明の効率改善は進んでおり、すでに電球型蛍光灯に追いついた。直管型蛍光灯に比べても、早ければ2010年ころには上回る見通しだ。
2010年、さらにその先を見通すとLEDの変換効率の高さは歴然である。既存の光源である白熱電球や蛍光灯の変換効率向上はすでに飽和しており、これから先に大きく高めるのは難しい状況である。これに対してLED照明器具の変換効率は、しばらくは順調に向上する見込みだ。LED照明器具に使う白色LEDそのものの変換効率の向上が著しいためである。LEDのpn接合(発光)部が発した光をうまく外部に取り出すための、LEDチップ構造やパッケージ技術の改善が続いていることなど複数の理由が背景にある。
今後しばらくは、白色LEDの変換効率は年率20%のペースで向上すると見られる。その結果、「2012年ころには、研究レベルで250lm/Wに達する見通し」(中村氏)。一般に、照明器具の変換効率は、電源回路での電力損失や器具部分での光損失があるために、白色LEDの変換効率の70〜80%となる。仮に、250lm/Wの白色LEDが量産されれば、LED照明器具の変換効率が蛍光灯の2倍に相当する200lm/Wも不可能ではない。
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