変換効率の点で、青色LEDチップにはかなわない現時点においても、紫色(近紫外線)LEDチップを使ったLED照明に対するニーズはある。「照明用器具(灯具)を扱う顧客から、紫外線(UV)領域のLEDは開発しないのかという質問をよく受ける」(ライティング・フェア 2009でのフィリップスエレクトロニクスジャパンブースの説明員)、「名は明かせないが大手照明企業から、紫外線領域のLEDを照明に使いたいという引き合いがあった」(紫外線LEDの開発・製造を手掛けるナイトライド・セミコンダクターの代表取締役である村本宜彦氏)といった声がある。
実際、紫色LEDチップを活用したLED照明器具を製品化する動きが続々と現れてきた。大和ハウス工業と検査用LED照明を手掛けるシーシーエスが相次いで製品化を発表した。コイズミ照明とNECライティングは、2009年中の製品化を目指す。
大和ハウス工業と鉄鋼商社のナベショーは、紫色LEDチップとRGB蛍光体を使ったLED照明システムの販売を、2009年4月に始める(図5)。大和ハウス工業にとって、LEDを使った照明システムを取り扱うのは初の試みとなる。まずは、ホテルやオフィス、商業施設に向ける。「すでにコンビニエンス・ストアへの採用が決まっている。さまざまな分野から数多くの引き合いがある」(ナベショーの常務取締役である渡邊泰史氏)。紫色LEDを採用した理由についてナベショーの渡邊氏は、「自然光に近い色合いが得られることと、色むらが少ないこと」の2つを挙げた。「青色LEDチップを使った白色LEDと、紫色LEDを使ったものでそれぞれ、赤や緑の物体を並べて見ると違いは一目瞭然(りょうぜん)だ。『色つや』が全く異なる」(同氏)。
一方の色むらについては、「青色LEDチップを使ったものを試験的にコンビニエンス・ストアに採用した事例があるが、複数の照明器具の中の1つがいびつな光り方をすると、いくら寿命が長いといっても使い続けられない。これでは店舗に使えない、という事例があった」(同氏)と明かす。また、大和ハウス工業の開発担当者は、「ナベショーの顧問で著名な照明家の豊久将三氏が照明の光を見たときに、紫と青では得られる光の質が大きく違うと判断したようだ」と、紫色LEDを採用した背景を語った。白色LEDのパッケージと蛍光体の開発は、京セラが担当した。紫色LEDチップは外部から購入した。
一方、シーシーエスは、紫色LEDを使った顕微鏡用LEDモジュール「自然光CNR」の受注を開始した(図6)。LEDチップの発光波長は405nmである。電気回路の基板などを目視検査する際に使う顕微鏡などに向ける。「平均演色評価数は98で、特殊演色評価数はどれも100に近い。自然光に最も近いスペクトルを持つLED照明だ」(同社の管理本部 情報企画部 部長を務める小森孝行氏)。蛍光体材料と紫色LEDチップは三菱化学から購入し、自社でパッケージングした。価格は、同社従来品と同等に据え置いた。
目視検査向けLED照明に、紫色LEDチップを採用した理由について同社の発表資料では、「目視検査の場合、(従来の)LEDでは目が疲れて作業効率が悪い、色の再現性が悪く観察しにくいという理由から依然として蛍光灯を使うことが多かった。自然光CNRはこのような課題を解決するもの」としている。「演色性が高ければ、照度が低くても色をはっきり区別できる。従って、照度を低くして使えるため、目が疲れにくい」(同社の光技術研究所のLED研究開発部 LED研究開発課の課長である鈴木弘一氏)。今後、商業施設や美術館などに向けたLED照明器具に展開する。「LED照明が普及するに伴って、照明光の品質の問題はいずれ表面化するだろう。そのときに、紫色LEDを使ったタイプが真価を発揮すると考えている」(小森氏)。
コイズミ照明とNECライティングは、ライティング・フェア 2009で、紫色LEDとRGB蛍光体を使用したLED照明器具を展示した。いずれとも三菱化学が開発した白色LEDを採用した。
LEDの変換効率は、「青色LEDチップと黄色蛍光体を組み合わせた白色LEDの場合が100lm/Wで、少なくともこれの半分以上である」(コイズミ照明の説明員)。寿命は4万時間である。紫色LEDを使ったタイプを製品化する理由についてコイズミ照明は、「既存の白熱電球や蛍光灯を置き換えるからといって、照明の品質が下がってしまっては意味がない。照明専門メーカーとして、単に明るくて長寿命というだけはなく、照明の品質にもこだわりたい」(同説明員)と説明した。
まず、店舗のショーケースや展示棚などに向ける。「照明の光を当てたときに、魅力的に見えることを訴求したい」(同説明員)。2009年5月の製品化を予定する。価格は3チップ・タイプが電源部品込みで3万4000円程度である。一方のNECライティングの説明員は、「製品化時期は未定だが、1年以内の製品化を目標にしたい」とした。今の青色LEDチップを使った照明器具の「次に来るもの」という位置づけだという。「当然、照明用途を狙う。まずは、今の変換効率で受け入れられる局所照明の用途に売り込む」(同説明員)。
このほか東芝は、「次世代照明用途向け」をうたう発光波長380nmの近紫外線LEDを試作し、各色の蛍光体と組み合わせた形で2009年2月に開催された「nano tech 2009」で披露した。外部量子効率は36%で、「波長が380nmの近紫外線LEDとしては高い」(同社)。また、ナイトライド・セミコンダクターはすでに、波長が375nmで、外部量子効率が37%前後と高い近紫外線LEDや、波長が400nmで外部量子効率が50%前後の紫色LEDを開発済みである。同社も将来的には、照明分野を視野に入れている。
以上の動向を総合すれば、長期的な視点で見ると紫色(または近紫外線)LEDチップを使ったLED照明が占める割合は、今後拡大していく見込みである。「5〜10年後には、紫色(近紫外線)LEDを使った白色LED照明が主流になっていても、何らおかしい話ではない」(田口氏)。
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