一方の富士通テンは、スピーカの構造そのものを工夫することで、インパルス信号を忠実に再生するスピーカを実現している。「オーディオ信号に対する素早い応答を実現し、スピーカ固有の『響き』を徹底的に排除した構造だ」(富士通テンの小脇氏)。
具体的には、同社が開発したスピーカは通常のスピーカと構造が大きく異なり、電磁コイルと振動板を組み合わせたドライバ・ユニットと筐体(エンクロージャー)のほかに、「グランド・アンカー」や「フローティング構造」と呼ぶ仕組みが盛り込んである(図2)。グランド・アンカーはドライバ・ユニットの振動を吸収し、フローティング構造は筐体に振動が伝わるのを抑制する役割を担う。ドライバ・ユニットにも、素早い応答が得られるように振動板を軽量化したり強力な電磁コイルを使ったりという工夫がしてある。筐体の形状は卵形で、出力した音響信号の放射を阻害しないほか、筐体内部で不要な定在波を発生させないといった効果があるという。
スピーカの原理上、インパルス信号を忠実に再生するという点と、最大出力音圧を高めたり、周波数帯域を広げて低音に対応させたりといった点がトレードオフの関係にある。新たに開発した品種では、この改善を図った。具体的には、筐体の体積を増やしたりすることで、低域再生周波数を従来品の40Hzから35Hzに広げた。また、最大出力音圧を83.5dBから84dBに高めた。同社は今後も、インパルス信号の再生と、高出力と広い周波数帯域への対応を兼ね備えたスピーカの開発を進める。
なお、京都大学の開発グループと富士通テンはいずれも、原音に忠実な音響信号が得られるとしているものの、開発したスピーカから得られる音が「良い音」とは強く主張していない。「聞き手が感じる良い音とは、その人がこれまでどのようなスピーカを使ってきたか、どのような音楽を聴いてきたかに依存する」(同氏)という理由からである。
開発したスピーカに対する評価は、賛否両論あるようだ。重要な点は、インパルス信号を正確にスピーカから再生するという点を、絶対的な評価基準にしている点である。これによって、「音の明瞭感が高まり、音の立ち上がり/下がりが早く、音の定位がはっきりする」(同氏)という3つの効果が得られるという。
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