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WirelessHDの普及を目指す米SiBEAM社、携帯型機器への搭載も狙う無線通信技術 ミリ波(2/2 ページ)

» 2010年01月19日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]
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ノート・パソコンへの搭載も見込める

 WirelessHDを普及させるに当たって、SiBEAM社は第2世代品のチップセットが果たす役割は大きいと考えている。まず、システム・コストや実装面積を従来に比べて削減できる。さらに、デジタル・テレビやメディア・サーバー、Blu-ray Discプレーヤといった民生機器に加えて、ノート・パソコンへの搭載も狙えるからだ。ノート・パソコンがWirelessHDの機能を持てば、WirelessHDの用途がより広がる(図2)。

図 図2 WirelessHDが対象とする各種電子機器  デジタル・テレビやこれに接続するAV機器への搭載を狙う。第2世代品投入後は、ノート・パソコンへの搭載も現実的になったとする。

 同社はここ最近、「CE+PC」というメッセージを全面に打ち出している。CE(Consumer Electronics)に加えて、PC(Personal Computer)を対象アプリケーションとして狙うというメッセージである。これは「第2世代品の製品化によって可能になった」(サイビームジャパンの代表取締役社長である津久井裕三氏)という。

 第2世代品では、製造プロセスを90nmのCMOSから65nmのCMOSへ微細化することで、消費電力と実装面積の削減を図った(図3)。「消費電力は、およそ半分に減った」(同氏)という。消費電力の低減により、ノート・パソコンにチップを搭載することが現実的になった。さらに、データ送信距離を実用上問題ない程度に短縮することで消費電力を抑える機能をノート・パソコン向けに用意した。送信距離を2.5mとしたとき、送信側チップの消費電力は、2W以下に抑えられる。

図 図3 第2世代品の特長 第2世代品の概要をまとめた。3D映像フォーマットの一部に対応したほか、さまざまな改善を盛り込んだ。

テレビに複数のAV機器を無線接続し、自由に切り替え

 現在のところWirelessHDの用途と言えば、外付けのテレビ・チューナから、デジタル・テレビに無線で映像信号を送信すること、つまり双方を接続するHDMIケーブルの無線化ぐらいだ。点と点を無線で接続するだけで、ネットワークを構成するものとは言えなかった。

 SiBEAM社の第2世代品を使えば、「複数の民生機器をWirelessHDで相互に接続して、ネットワークを構成できる」(同氏)という。例えば、1台のデジタル・テレビに対して、Blu-ray Discプレーヤとメディア・サーバー、ゲーム機を無線接続し、テレビ・リモコンで通信相手の機器を切り替えるといったことが可能になる。

 従来のWirelessHD対応テレビは、工場出荷時にチューナーとテレビの組み合わせを決める必要があり、その組み合わせをユーザーが変えることはできなかった。そこで、第2世代品では、著作権保護技術「HDCP(High Bandwidth Digital Content Protection)」の2.0版に対応した。HDCP 2.0では、送信側と受信側の組み合わせを工場出荷後に設定できる。

 2010年1月に開催された「2010 International CES」では、WirelessHD規格やSiBEAM社の取り組みに関連した発表がいくつかあった。その中で津久井氏が、WirelessHD規格の普及を促す上で最もインパクトがありそうだと語ったのが、米VIZIO社がWirelessHD内蔵デジタル・テレビを2010年夏ごろに発売するという発表である。同社のデジタル・テレビは、高機能ながらも安価という評判を得ている。これにWirelessHDが標準で載った。VIZIO社は、HDMI端子を4系統搭載したWirelessHD対応通信アダプタや、WirelessHD準拠Blu-ray Discプレーヤなども発売する予定である。

図 図4 第3世代品の概要  据え置き型のAV機器に向けた品種と、携帯型電子機器に向けた品種の2系統を用意する。

第3世代品では、モバイル機器向けの品種も

 第2世代品に続き、2011年中にサンプル出荷予定の第3世代品では、前述のように高性能を追求した品種と、携帯型電子機器に向けて消費電力の低減を図った品種の2系統を用意する(図4)。高性能品は、デジタル・テレビの技術進展に追従すべく伝送速度を向上させたもの。携帯型電子機器に向けた品種は、対象アプリケーションの拡大を狙ったものと位置付けられる。

 高性能品の伝送速度(PHY層)は28Gビット/秒、データ・レートで10数Gビット/秒に達する予定である。現在の品種の伝送速度(PHY層)は、5Gビット/秒程度。これに比べると大幅な高速化だ。リフレッシュ・レートが120Hzや240Hzと高いテレビや、4K2K(4096×2160画素)表示の高解像度テレビへの採用も狙える。さらに第3世代品では、今後の普及が見込まれる3Dテレビの対応フォーマット数を、第2世代品よりも増やす計画である。

 28Gビット/秒という伝送速度は、60GHz帯の7GHz幅の周波数帯域を4つに分割し、そのうち1つの帯域をデータのやりとりに使うという現在の方式はそのままに、周波数の利用効率を高めることで実現する。現在は16値QAM(Quadrature Amplitude Modulation)を採用しているが、この変調値を増やすという。

 一方の携帯型電子機器に向けた品種では、送信側チップ・セットと受信側チップ・セットのうち、送信側チップ・セットのみを用意する。HD映像を携帯型電子機器で受信し、そのディスプレイで表示するような利用シーンを想定していないからだ。

 ただし、KIOSK端末などと双方向にデータをやりとり可能にする機能を用意する。データ・レートは1Gビット/秒程度になる見込みである。テレビに向けてHD映像を非圧縮伝送するときのデータ・レートは現状と同等の3.8Gビット/秒程度を確保する。「例えば、KIOSK端末で映画コンテンツを購入して携帯型機器にダウンロードし、その後宅内のテレビにコンテンツを伝送して映画を楽しむといった使い方ができる」(サイビームジャパンの津久井氏)という。

 なお第3世代品は、2010年第1四半期に発表予定の次世代規格「WirelessHD Next Generation」に準拠する予定である。

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