具体例を紹介しましょう。図2(a)のように、帰還抵抗を使って利得が6dBの増幅器を作成しました。
この回路は反転増幅器の構成を採っているため、出力電圧の向きが図1とは反転しています。また、帰還抵抗R1と信号源抵抗R4で帰還をかけていることになるので、利得はR1/R4=2倍となります。そのため出力電圧の傾斜の傾きは2となり、図1より緩やかになっています。
図2(b)の入力電圧と出力電圧の関係からは、出力電圧が2.2V以下の領域(入力電圧がおよそ3.3V以上)で増幅器が動作していないことが分かります。出力電圧が制限されてしまうと、例えば、NPN型トランジスタを使ったエミッタ接地回路を次段に接続したとき、ベース電圧(つまり、図2(a)の増幅器の出力)が、グラウンド電圧まで下がらず、適切なバイアス電圧にならないといった問題が発生してしまいます。
図2で出力電圧が2.2Vを境に制限されているのは、出力ノード(トランジスタQ2のコレクタ)の電圧が差動対のQ2のベース電位より下がり、利得が急速に低下するためです。この問題は、図3(a)のようにエミッタ接地回路と電流源を追加することで解決できます。
詳しく説明しましょう。まず、トランジスタQ2のコレクタ電圧がQ2のベース電圧より下がると、ベース・コレクタ間のダイオードがオンになってしまいます。この結果、ベースからコレクタの向きに電流が流れます。そうすると、コレクタ電位がベース電位よりも0.8V程度低いところで制限されてしまいます。
これを防ぐため、トランジスタQ2のコレクタは電源電圧Vccに近い範囲の高い電圧値では十分動作するので、この電圧範囲で制御しやすいPNP型エミッタ接地回路を追加します。さらに、追加したPNPのエミッタ接地がオフのときに十分にグラウンド電圧まで出力電圧Voutが下がるように、NPN型の電流源を接続します。
エミッタ接地と電流源を加える前の回路では、差動対のトランジスタQ2が邪魔していたため、出力電圧がある値より下がらなかったのです。PNP型トランジスタのエミッタ接地回路を使うことで、邪魔な差動対をよけて動作するようにしたので、グラウンドまで動作範囲を広げる事ができました。
改善した結果の入出力特性を図3(b)に示しました。グラウンド電圧まで十分な動作範囲が得られていることが一目瞭然(りょうぜん)です。
図3(a)を見ると、エミッタ接地のPNP型トランジスタと、電流源のNPN型トランジスタのコレクタ(つまり電流源)どうしが接続されているので、ここも能動負荷となってさらに利得を高められます。入出力動作範囲が改善できただけではなく、利得をさらに高めることもできました。
ところが、図3(a)の回路を実際に使ってみたところ、出力の激しいリンギング(ばたつき)が発生してしまいました。このリンギングには周波数特性の傾斜が深く関係しています。次回は、図3(a)をボルテージフォロアに適用した例と、このボルテージフォロアの周波数特性を解説しましょう。
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