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スマートグリッドを実現する無線の進化、サービス連携や組み込み容易に無線通信技術 スマートグリッド(3/4 ページ)

» 2010年12月03日 00時00分 公開
[前川慎光,EE Times Japan]

ソフトウエア提供で収入得る

 People Powerは、前述の通り、無線通信モジュールを提供しながらも、オープンソースのネットワーク接続用ミドルウエアや、クラウドを利用した電力管理サービスを売りにしている。なぜ、このような戦略を採るのか・・・。その理由は、「素晴らしい特性を持ったハードウエアを提供する半導体ベンダーはすでに数多くある。ハードウエアで差別化するのは難しい」(同社のCEO兼ChairmanのGene Wang氏)という考えにある。

 電力管理システムに向けたクラウドサービスを提供するとき、分かりやすく、使い勝手の高いユーザーインターフェィスを提供することが重要になる。この部分で、他社との差別化を図ったわけだ。「我々のアイデアを具体化する対象が、ソフトウエアだった」(同氏)。ただ、ソフトウエアだけでも不十分で、ハードウエア(無線通信モジュール)を、自社または協力企業で用意することも重要だと考えている。独自のアイデアを盛り込んだソフトウエアを形にするには、ハードウエアにも工夫が必要だからだ。

 同社のビジネスモデルは2つある。1つは、プラットフォームを採用するメーカーが年間費用を支払う「SaaS(Software as a Service)」モデル。もう1つは、プラットフォームを導入するときにセットアップ費用を支払うモデルである。この場合、導入企業が独自ブランドで電力管理サービスを提供できる。

Wi-Fiをスマートエネルギー分野に使う

 機器組み込み用Wi-Fiチップを手掛ける企業の1社であるGain Spanは、消費電力が低いことに加え、組み込みが容易であることをアピールした製品を提供している。

 宅内の電力管理システムを対象にした無線通信規格は複数あり、いわば乱立した状態だ。前述のIEEE 802.15.4gやZigBeeなどが候補に挙がる。これまで、Wi-Fiは、ZigBeeなどに比べて、消費電力が大きいとされてきた。最近になって、ZigBeeに匹敵するほど消費電力が低いことを訴求したWi-Fiチップがいくつか登場したことを背景に、宅内の電力管理システムやスマートエネルギーの領域に使おうという機運が高まっている。

 同社のPresident & CEOであるGreg Winner氏(図6)は、白物家電やOA機器、デジタル家電、照明といったさまざまなエレクトロニクス機器に無線機能を搭載するとき、考慮すべき点があると指摘した。それは、「インターネットへの接続が容易で、独自技術ではない標準的な技術を使うこと」(同氏)である。候補として最も適するのが、Wi-Fiだと説明した。

図6 図6 Gain SpanのPresident & CEOであるGreg Winner氏  スマートグリッドやHEMSの領域で、Wi-Fiを利用する意義を語った。すでに、スマートフォンに広く採用されており、インターネット接続との親和性が高いTCP/IPを使っていることがほかの方式に比べた優位点である。Wi-Fiの活躍範囲は今後さらに拡大し、ヘルスケアや産業、物流管理、測位などに広がっていくと説明した。

 前述のように、宅内の電力管理システムを対象にした無線通信規格はいくつもあるが、その中でも「Wi-Fiは、すでに社会インフラといってよいほど、普及している」(同氏)。Wi-Fiに対応した公衆無線用アクセスポイントは無数にある。しかも、Wi-Fiを使った無線通信機能を搭載したスマートフォンが急速に普及しており、2010年10月には機器間を直接接続する「Wi-Fi Direct」の認証作業も始まった。このような状況を考慮し、いわば「Wi-Fiインフラ」を宅内の電力管理システムにも活用することが、システム導入を進める上で必要だと語った。

組み込みが容易であることを強調

 Wi-Fiチップを手掛けるベンダーは数多くある。Gain Spanが強調するのが、宅内機器への組み込みを想定したとき、低コストのマイコンを使った機器にも実装が容易であることの重要性である。

 スマートフォンといったモバイル機器に使われているメインのマイコンは、一般に処理性能が高く、搭載しているメモリ容量も大きい。対照的に、組み込み機器に使うマイコンは、8ビットや16ビットといった処理能力もそれほど高くない品種が主流で、搭載しているメモリ容量も小さい。

 このような組み込み機器に、無線通信機能を搭載するとき、汎用プロセッサに処理させるのは難しい。そこで同社は、Wi-Fiチップに、処理のほとんどを任せる構成を提案している。すなわち、TCP/IPスタックやネットワークスタックをはじめ、ネットワークサービスやセキュリティ確保といった、数多くの機能を実現するファームウエアを無線LANチップで処理するようにした。

 アルプス電気や佐鳥電機、村田製作所が、Gain Spanの無線LANチップを採用したモジュールを用意している。すでに、測位や物流管理といった分野では、同社の無線LANチップの採用事例がいくつかある。「スマートメーターやスマートエネルギーといった分野に向けては、2011年後半に量産が始まる見通しだ」(同氏)という。

 「無線通信技術は、将来の我々の生活をどのように変えるか」という質問に対し、Greg Winner氏は、「抽象度の高い表現を使うならば、地球の資源を残すことや、生活の質の向上をもたらしてくれる」と語った。

 例えば、宅内のさまざまな機器がインターネットに無線接続することで、電力消費量を抑制する仕組みを構築しやすくなるだろう。また、医療/ヘルスケア分野の機器がインターネットに無線接続することで、自宅にいながらにして高度な健康管理サービスを受けられるようになるかもしれない。

 PCを無線でインターネットに接続することを1つ目の無線化の波、スマートフォンを無線でインターネットに接続する流れを2つ目の無線化の波だとすると、今まさに、3つ目の波が到来しているという。それは、さまざまな機器を接続する「M2M(Machine to Machine)」や、先に述べた、モノのインターネットを実現した世界への展開である。

 「スマートフォンはインターネットに接続することで、多くの便利な機能を実現している。宅内のさまざまなエレクトロニクス機器も同様だ。インターネットに無線接続することで、我々は便利で安全な生活を享受できるだろう」(同氏)。

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