MOSFETは、以下のような順番で電圧や電流が決まります(図2(a))。
(1)ドレインに電圧が掛かる。
(2)ゲートに電圧を掛ける。
(3)ゲート-ソース間電圧Vgsに応じた電流が、ドレインに流れる。
(4)負荷抵抗(R1)とドレイン電流の値によって、ドレイン電圧が決まる。
ドレインとソースは水道管の入り口と出口に対応し、ゲートはその名のごとく水道管を流れる水を調節するバルブと思えば理解しやすいかもしれません。MOSFETで面白いのは、図2(b)のようにソースもドレインも同じ構造なので、どちらがドレインかソースかどうかは、構造的に決まっていないことです。
では「誰が」ソースとドレインを決めているのでしょうか。それは、電圧がソースとドレインを決めるのです。つまり、n型の場合は電圧が低い方がソースになり、一方のp型では電圧が高いほうがソースになります。これは、回路の動作の状態によってドレインとソースが入れ替わることを意味します。バイポーラトランジスタでは起こりえないことで、このことを知ったときは衝撃的でした。
図3(a)に、n型MOSFETのゲート-ソース間電圧Vgsとドレイン電流Idの関係を示しました(ドレイン電圧は5Vで一定)。ある値のVgsから急に電流が増えるグラフの形になります。急に電流が増える地点の電圧は、「しきい値電圧」、または「オン電圧」と呼びます。
図3(b)は、ゲート-ソース間電圧Vgsをパラメータとして設定し、ドレイン-ソース電圧Vdsとドレイン電流Idの関係を示しています。ドレイン-ソース電圧Vdsがある一定値以上に増えると、ドレイン電流Idの値がほとんど変わらず一定になっていることが分かります。
このグラフの形が平坦な領域は、Vdsが変化しても電流値が変わらない電流源として動作しており、「飽和領域」と呼びます。通常は、この飽和領域を使います。逆に、Vdsが低く、Vdsの変化に応じてIdが変化する領域は、「線形領域」と呼びます。本連載の第5回「トランジスタには接続方法が3つ」で説明した、バイポーラトランジスタの「飽和領域」とは、まったく逆なので、要注意です。
MOSFETを使って増幅器などを設計するときは、バイポーラトランジスタと同じようにVdsが高い飽和領域を使います。これに加えて、バイポーラトランジスタとは異なり、線形領域を使って、MOSFETを可変抵抗として動作させられることが、MOSFETの大きな特徴です。
ドレイン電流の近似式を、(1)式と(2)式にまとめました。線形領域と飽和領域では当然のことながら、近似式は異なります。線形領域では、以下の(1)式でドレイン電流の変化を近似します。
飽和領域では、以下の(2)式でドレイン電流の変化を近似します。
飽和領域では、ドレイン電流Idが、ゲート-ソース間電圧Vgsの2乗の関数になっている事に気づいたでしょうか。図3(a)のグラフの形を参考にして下さい。バイポーラトランジスタでは、コレクタ電流Icは、ベース-エミッタ電圧Vbeの指数関数になっていました。これに対して、MOSFETは2乗の関数なので、ドレイン電流Idの変化はバーポーラトランジスタほど激しくありません。このことは、高い利得を得るためには、バイポーラトランジスタのほうが有利であることを示しています。
MOSFETとバイポーラトランジスタとの差異を、表1にまとめました。次回は、MOSFETを使った増幅器を紹介します。
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