情報通信研究機構などは、次世代パワー半導体材料の1つである酸化ガリウムを用いたMOSFETを開発したと発表した。酸化ガリウムは、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)よりも、パワー半導体に向く材料物性を備えるという。
情報通信研究機構(NICT)は2013年6月19日、タムラ製作所、光波の2社と共同で、次世代パワー半導体材料の1つである酸化ガリウム(Ga2O3)を用いたMOSFETを開発したと発表した。NICTでは、今回の開発成果について「世界で初めて」としている。
パワー半導体分野は、これまで他の半導体分野と同様、シリコン(Si)を材料に用いたデバイスが主流だ。しかし、さらなる高耐圧、低損失なパワー半導体を作製するには物理的な限界に直面しつつあり、Siよりも電気的特性に優れる新たな半導体材料を用いた次世代パワー半導体の開発が活発化している。
具体的には、Siよりもバンドギャップ*)が大きいとされるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使用した次世代パワー半導体の開発が積極的に行われ、一部実用化が始まっている。
*)電子が占有する最も高いエネルギーバンドである価電子帯の頂上と、最も低い空のバンドに相当する伝導帯の底までのエネルギー差。材料物性を決める最も基本的なパラメータの1つ(NICTプレスリリースより抜粋)
今回、NICTなどが開発したMOSFETに用いる酸化ガリウムは、SiCやGaNよりも、さらに大きなワイドギャップを持つ。そのため、SiCやGaNよりも、高耐圧、大電力分野での活用が期待される。加えて、大型単結晶基板を作りやすい「融液成長法」で基板が作製できるというSiCやGaNにない特徴も備える。NICTでは「酸化ガリウム基板の価格面でのアドバンテージは大きく、少なく見積もっても、将来的にはSiCやGaN基板の1/10〜1/100以下の価格になると考えられる。これらの高いポテンシャルがあるにも関わらず、未開拓の半導体材料」とする。
NICTなどは、今回、酸化ガリウムに合わせて開発したデバイスプロセス技術を用いてMOSFETを作製し、「動作実証に世界で初めて成功した」(NICT)という。
酸化ガリウムMOSFET実現に重要な技術としてNICTは、イオン注入とゲート絶縁膜に関する技術を挙げ、新たにSiイオン注入によるドーピング技術と絶縁膜(Al2O3)堆積技術を構築し適用したとする。
その結果、作製した酸化ガリウムMOSFETは、39mA/mmという高いオン電流、370V以上の高いオフ状態耐圧を実現。同時に、測定不可能な数pA/mm以下という小さなリーク電流や、109以上の高い電流オン/オフ比などの性能を達成したという。開発したMOSFETを、実際のパワーデバイス機器に応用した場合、「既存の半導体トランジスタと比較して、高い耐圧とスイッチング動作時の大幅な損失低減が期待される」(NICT)。
NICTは今後の展望として、「(酸化ガリウムという)半導体材料の利用価値は大幅に膨らみ、次世代高性能パワーデバイスの近い将来の実用化に対して道筋を付けることができた。今後、その優れた物性を生かした酸化ガリウムデバイスに関する研究開発が、世界的に急速かつ本格的に広がると予想される。近い将来、送配電、鉄道といった高耐圧から、電気、ハイブリッド自動車応用などの中耐圧、さらにはエアコン、冷蔵庫といった家電機器などで用いられる低耐圧分野も含めた非常に幅広い領域での応用が見込まれる」とコメントしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.