東京工業大学の研究グループは、60GHz帯のミリ波通信に向けたRFトランシーバ回路を開発した。「16QAMの変復調が可能な、ダイレクトコンバージョン型のRFトランシーバ回路は世界初」(東京工業大学)という。
東京工業大学の研究グループ*1)は、60GHz帯のミリ波通信に向けたRFトランシーバ回路を開発した。局部発振器やミキサ回路、パワーアンプ(PA)や低雑音アンプ(LNA)などで構成したもの。短距離の高速無線通信に使える。
特徴は、主に2つある。1つは、ミリ波通信に関する国際標準規格「IEEE 802.15.3c規格」で規定したすべての変調方式に対応したこと。具体的には、最大で16QAM(Quadrature Amplitude Moduration)の多値変調を採用できるほど、変調精度(EVM)が良好である。
もう1つは、回路寸法の小型化や低消費電力化が見込めるダイレクトコンバージョン方式を採用したことである。「16QAMの変復調が可能な、ダイレクトコンバージョン型のRFトランシーバ回路は世界初」(東京工業大学)という。これによって、モバイル機器への搭載が見込めるほど消費電力を抑制しつつ、高速のデータ伝送を実現した。
本研究成果は、米国のサンフランシスコで開催された半導体回路技術の国際学会「ISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference) 2011」(2011年2月20日〜24日)で発表した。論文タイトルは、「A 60GHz 16QAM/8PSK/QPSK/BPSK Direct-Conversion Transceiver for IEEE 802.15.3c」である。
一般に、16QAMといった多値変調を採用すると、データ伝送速度を高められる一方で、局部発振器の位相雑音に対する要求が厳しくなる。位相雑音が大きいと、変調精度が劣化し、正しくデータを伝送できなくなってしまうからだ。60GHz帯という高い周波数帯域では、コイルやコンデンサといった回路の構成要素となる部品の損失が大きく、位相雑音を下げるのが難しかったという。
さらに、ダイレクトコンバージョン方式を使うと、回路構成がシンプルになり、小型化や低消費電力化が見込めるが、位相雑音が小さく4相正弦波出力という、技術難易度の高い局部発振器が必要だった。
今回、位相雑音が少なく、4相正弦波出力が可能な局部発振器を開発したことなどで、16QAMの変復調が可能なダイレクトコンバージョン型のRFトランシーバ回路を実現した。
東京工業大学の研究グループは、2010年11月8日〜10日の期間に中国の北京で開催された「2010 IEEE Asian Solid State Circuit Conference(A-SSCC 2010)」で、今回採用した低位相雑音の局部発振器について発表していた(「モバイル機器の60GHz帯通信に道、局部発振器の位相雑音で世界最小を達成」を参照)。ISSCC 2011では、低位相雑音の局部発振器を使ってRFトランシーバ回路を設計し、実際に評価した。
RFトランシーバ回路の消費電力は送信側が186mW、受信側が106mWと小さい。伝送速度は、QPSK変調時に最大3.52Gビット/秒、16QAM変調時に7.04Gビット/秒である(IEEE 802.15.3c規格で規定した2.16GHzの帯域幅を使ったとき)。
伝送距離は、QPSK変調時に最大274cm、16QAM変調時に最大17cm。伝送距離は、ビットエラー率(BER)が10-3以下を満たす範囲として規定した。RFトランシーバ部におけるBERが10-3以下であれば、別途用意した誤り訂正機能によってシステム全体としてBERが10-6という実用範囲に改善可能だという。アンテナはパッケージに内蔵しており、2dBiの利得を確保した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.