暗号は通信の秘密を守るために使われる。だが、受信データを復号するときには復号チップに電力を供給しなければならないうえに、強力な暗号を使うとそれだけ電力を要する。米国の研究者はデータの内容によって暗号の強度を変えることで、消費電力の削減が可能なことを示した。
無線でビデオストリーミングを受け取るとき、携帯型機器の電池を消耗することなく、最も重要なコンテンツを集中して保護することが可能になった。South Dakota State Universityで工学部の教授を務めるウェイ・ワン(Wei Wang)氏は、5つの大学からなる研究チームの指揮を執り、新しい選択的暗号化技術を開発した。
携帯型機器のユーザーは現在ジレンマに直面している。内蔵電池を長持ちさせるにはセキュリティ対策が施されていない無線伝送を選択するしか方法がなく、ビデオ・ストリーミングデータなどの傍受を防ごうとすると消費電力が増えてしまう。しかしワン氏によると、新たに開発した選択的暗号化技術を適用すれば、電力使用量の削減が可能になるという。
ワン氏は、「利用できる電力と処理性能に限りがある中で、高品質かつ強力なセキュリティの実現を目指した」と述べる。
研究グループは、ストリーミング・ビデオファイルのコンテンツを分析して、ビデオ・ストリーミング全体に影響を与えることなく、詳細なレンダリングが必要な部分を特定し、少ない解像度で済む部分と切り分けた。暗号化ルーチンの中で、重要な部分の暗号化に対してより多くの処理能力を割り当てながら、信頼性が低くても構わない部分を高速で暗号化できる。その結果、ストリーミング・ビデオの暗号化と復号に必要な電力を削減することが可能だ。
ワン氏の研究チームはデモを披露し、1つの画像ファイルを分析して、詳細なレンダリングが必要な領域と、そうではなく強力な暗号化が不要な領域とを区別してみせた。例えば、銀行小切手のスキャンデータの場合、番号や金額には高画質なレンダリングが求められるが、べた一色の部分は、弱い暗号化で十分だ。
同氏は、今回の新技術を業界全体で採用して、暗号化の精度を調整することにより、即座に携帯型機器の消費電力を削減できると主張する。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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