米国の半導体ベンダーであるIDTは、圧電MEMS技術を適用し、高周波出力が可能で周波数安定度が高い発振器を開発した。0.56×0.43mmと小さいウエハースケールパッケージで提供できるという。
IDT(Integrated Device Technology)は2011年11月30日、圧電MEMS(pMEMS)で製造する新型の発振器を発表した。既存のMEMS発振器よりも高い周波数で発振でき、水晶発振器よりも高い安定度が得られるという。しかも、「世界最小のウエハースケールパッケージで供給することが可能だ」(同社)と主張する。同社でMEMS製品のマネジングディレクターを務めるHarmeet Bhugra氏は、「このpMEMS発振器は、あまりに小さく、肉眼で見ることが難しいほどだ」と述べている。
同社はタイミングデバイスを注力事業の1つに位置付けており、水晶やSAW(弾性表面波)素子、シリコンCMOS技術を使った製品を供給している(参考記事)。同社によると、タイミングチップの市場規模は30億米ドルで、その中でもMEMS発振器は、最も成長率が高い製品分野の1つである。そこで同社は5年を費やしてpMEMS発振器のチップを開発し、0.56×0.43mmと小さいウエハースケールパッケージに封止できるようにした。Bhugra氏は、「当社にとって、MEMS品の投入は、自然な進化であり、他のタイプの発振器を補完するものだ」と語っている。
IDTが開発したpMEMSプロセスでは、単一結晶のシリコンにMEMS技術で作り込んだ共振ビーム(梁)の上に、窒化アルミニウムの圧電層を形成する。この圧電層は、シリコンの共振ビームを動かすとともに、バルク弾性波(BAW)を電気的なタイミング信号に変換する役割を果たす。IDTによれば、これにより1GHzと高い固有周波数が得られる。
同社のBhugra氏は、「従来のMEMS発振器は、発振周波数がメガヘルツ(MHz)の範囲にとどまっていた。pMEMSを適用すれば、数百MHzから数GHzの発振周波数が得られる」と主張する。さらに同氏は、「従来のシリコンMEMSは、水晶に比べて長期安定性が低かった」と指摘しており、「当社のpMEMSは、水晶発振器を上回る長期安定性を実現でき、既存のMEMS品の課題を解決できる」と述べている。同氏によれば、pMEMS発振器をエージングした際の周波数ドリフトは、25℃における水晶と同等であり、125℃の加速試験では水晶よりも大幅に小さく抑えられていることを確認しているという。
さらに同社は、pMEMS発振器では、バルクシリコンの共振器と、その上に重ねる窒化アルミの圧電層との電子機械的な結合が強いため、原理的に機械的な強度が高く、非常に優れた信頼性を確保できると主張する。衝撃や振動に対する耐性が高く、ジッターが極めて小さい上に、単一デバイスから周波数が異なる複数の出力を作りやすいといったメリットがあると説明している。
IDTはこのpMEMS発振器を、ウエハースケールパッケージの他、低コストのプラスチックパッケージでも提供する考えだ。既に評価ボードに実装した形で出荷を始めており、2012年に量産出荷を開始する計画である。
【追加情報】(2012年5月16日)
IDTは2012年5月に、このpMEMS技術を適用した発振器の最初の製品群となる「4Mシリーズ」を発表した(EDN Japanの関連記事)。これについて同月にIDTが報道機関を対象に開催した説明会において、EE Times Japanが同社の担当者に確認したところによると、本記事中に記述がある「pMEMS発振器のチップを開発し、0.56×0.43mmと小さいウエハースケールパッケージに封止できるようにした」は、事実と異なるという。
IDTによれば、ウエハースケールパッケージに封止しているのは、「発振器」ではなく「振動子」であり、発振器はその振動子の他に、駆動回路とPLL回路を集積したASICと、出力バッファICをまとめて、プラスチックパッケージに封止して提供する。実際に4Mシリーズのパッケージ寸法は、7050サイズ(7.0×5.0mm)もしくは5032サイズ(5.0×3.2mm)である。
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