201X年の近未来、モバイル機器はもっと自由になる。写真や映像といったさまざまな大容量コンテンツを、「意識」しないほどスムーズにやりとりできる時代へ。モバイル機器の無線通信技術が今大きく変わろうとしている。スマートフォンやタブレットPCといったモバイル機器の使い勝手を大きく高める、新たな無線通信技術の最新動向をまとめた。
重い、遅い、つながりにくい―。スマートフォンやタブレットPCといったモバイル機器が身近になり、さまざまなインターネットサービスやアプリケーションを使えば使うほど、「データを移動している」ということを意識する機会が増えてしまう。高画質な写真をSNSに投稿したい、ハイビジョンの映画を大画面のデジタルテレビで視聴したい、スマートフォンのコンテンツをストレージシステムに移動して保存したい……。多様な機能と持ち運びやすさを兼ね備えたモバイル機器に対する一般消費者の要求は尽きることがない。
言うまでもなく、モバイル機器のデータをやりとりするときに重要な役割を担っているのが、無線通信技術だ。この無線通信技術が、これから迎える数年間で大きく変化しようとしている。データ伝送速度*1)が1Gビット/秒超という、既存方式の数倍もの高速化を実現した「超高速無線LAN(Local Area Network)」の準備が整い、いよいよ実用化のフェーズに入ったのだ(図1)。
「超高速無線LAN」が意味することは何か。それは、スマートフォンやタブレットPCにため込んだコンテンツの解放だ。1Gビット/秒を超えるデータ伝送速度があれば、大容量のデータでもわずかな時間でやりとりできる。データの移動ということに負担を感じることなく、高品質の写真や画像、映像を取り扱えるようになるだろう。モバイル機器の使い勝手は大きく高まる。
超高速無線LANを実現する新規格として注目したいのが、「IEEE 802.11ac」と「IEEE 802.11ad」である。この両規格は1Gビット/秒を超える高いデータ伝送速度を実現できる点は同じだが、通信に利用する周波数帯域や、データ伝送速度の理論上の最大値、得意とするアプリケーションが異なる。
まず、IEEE 802.11acは5GHz帯を使い、最も高性能な構成のときに最大6.9Gビット/秒のデータ伝送速度を実現する。ただ、この最大6.9Gビット/秒を実現する構成は技術やコストの観点で非常にハードルが高く、まず第1世代の無線LANチップとしてはデータ伝送速度が最大1.3Gビット/秒の品種が製品化された。5GHz帯を使うため通信範囲は数10mと広い。従って、宅内の広い範囲でマルチメディアコンテンツをやりとりするといった用途に向く。
一方のIEEE 802.11adは、60GHz帯という非常に高い周波数を使う規格で、通信範囲は最大で10m程度と狭い。しかし、免許不要で利用できる周波数帯域が非常に広く、データ伝送速度をIEEE 802.11acに比べ、高速化しやすいことが特徴だ。規格上のデータ伝送速度の最大値が6.8Gビット/秒、市場に投入される品種でも4.6Gビット/秒に達する。1つの部屋内でハイビジョン映像を非圧縮で伝送したり、大容量のコンテンツを比較的近距離で移動させるといった用途に向いている。
IEEE 802.11ac/adともに、無線LANの国際標準規格を策定する「IEEE802.11作業部会」で作業が続けられているが、2011年後半から製品化に向けた動きが一気に表れてきた。
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