まず、2011年末から半導体ベンダーが相次いで、IEEE 802.11acに準拠した無線LANチップの製品化を発表した(表1)。
展示会でも、IEEE 802.11acを採用した試作品が幾つか出てきている。例えば、Broadcomとバッファローはそれぞれ、2012年1月に米国ラスベガスで開催された消費者向けエレクトロニクスの総合展示会「2012 International CES」で、IEEE 802.11acのドラフト版に準拠した無線LANチップを使った業界初のデモを披露した(関連記事、図2)。また、2012年2月にスペインのバルセロナで開催された携帯電話関連の国際展示会「Mobile World Congress 2012」では、QualcommがIEEE 802.11acの無線LAN機能を搭載したスマートフォンの試作品を展示していた(図3)。
既に、最終製品の投入を表明した企業もある。バッファローは業界に先駆け、IEEE 802.11acに準拠したアクセスポイント「AirStation WZR-1750H」を、2012年第3四半期に米国で発売すると発表した*2)。同社で商品企画を担当したブロードバンドソリューションズ事業部のマーケティンググループリーダーを務める佐藤恒多氏は、「現在、実際のユーザー環境で利用したときに通信範囲とスループットを両立させるチューニング作業を進めている。市場の動きの一歩先を捉え、新技術を採用したアクセスポイントをいち早く投入する」と説明した。
Broadcomのモバイル&ワイヤレス部門でシニアバイスプレジデントを務めるMichael Hurlston氏は、「IEEE 802.11nが登場してから既に5年が経過し、業界の中で新技術に対する要望が高まっている。IEEE 802.11ac対応無線LANチップに関する当社のプレスリリースにコメントを寄せた企業は14社に上った。これは今までにないことで、この新規格に対する期待の高さが如実に表れている」と意気込みを語った。同氏によれば、IEEE 802.11acに対応したゲートウェイやノートPC、テレビは2012年後半に、スマートフォンやタブレットPCは2012年第4四半期〜2013年第1四半期に製品化される見通しだという。
一方の60GHz帯を使うIEEE 802.11adについても、この規格の普及促進を目的とした業界団体である「Wireless Gigabit(WiGig) Alliance」が、同団体初となる相互接続検証イベント(プラグフェスタ)を2011年12月に開催した。同団体が2012年2月に発表したニュースリリースによれば、認証を受けた最終製品が2013年初めに発売される見込みだという*3)。
米国の市場調査会社であるABI Researchは、2011年9月に発表した市場調査リポートで、IEEE 802.11acの無線LANチップの出荷は2013年に急激に増加し、2013年後半〜2014年にはIEEE 802.11acの出荷数の割合が無線LANチップ全体の半分を超えると予測した(関連記事その1、その2)。IEEE 802.11adについても、2016年ごろには採用が広がる見通しである。モバイル通信の高速化を後押しするのは、前述のIEEE 802.11acやIEEE802.11adだけではない(図4)。ここ数年で、さまざまな高速の無線通信技術の「モバイル指向」が鮮明になってきた。全ての高速無線がモバイル端末を軸に盛り上がる、そんな様相だ(関連記事その1、その2)。
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