NECはメタマテリアル構造を採用することで、素子サイズが業界最小クラスのアンテナを開発した。機器に組み込んだときの特性変動を抑えたことや、全方向に高い受信感度を有することも特徴である。
NECは、人工的な周期構造である「メタマテリアル」を採用した近距離無線通信モジュール用アンテナを開発した。M2M(Machine to Machine)ネットワークを構築するセンサーなどに組み込むことを想定しており、実際にグループ企業のNECエンジニアリングが2012年度前半にこのアンテナを搭載したモジュールを製品化する予定である。
メタマテリアルとは、対象とする電磁波の波長よりも物理的な寸法が小さい周期構造を、金属や誘電体材料などを使って形成した人工媒質のこと。アンテナをはじめとした高周波部品に適用する取り組みが進んでおり、部品の電気的な特性を維持したまま、大幅に小型化/薄型化できると期待されている。日本国内でも2007年ごろから注目されていたが、これまで公開された範囲では製品化された事例は無かった。
NECは今回、金属リングの一部を切り取ったような「C」型の共振器(これを「スプリットリング共振器」と呼ぶ)を積み重ねたメタマテリアル構造をアンテナ素子として採用した。共振器を多層に積み重ねたことや、共振器の形状を最適化することで、以下の3つの特徴が得られたという。
(1)素子サイズが業界最小クラス
プリント基板に作り込んだスプリットリング共振器を複数積層する新構造を開発した。これによって、電波の放射効率を高く維持しつつ、アンテナを小型化することに成功した。
(2)機器に組み込んだときの特性変動が小さい
スプリットリング共振器の形状を最適化することで、高周波電流を共振器の周囲に集中させた。従来のアンテナ構造では、基板や機器の他の回路に電流が流れ出ることでアンテナの性能に変動が生じていたが、この最適化でその変動を抑え、安定した送受信性能を実現した。
(3)全方向に高い受信感度を有する
スプリットリング共振器に流れる2方向の電流を最適に組み合わせて、全方位への電波の放射を実現した。これによって、アンテナがどの方向を向いていても安定した通信が可能になった。
なおメタマテリアルアンテナは、米国のベンチャー企業であるRayspanが2008年に業界で初めて製品化した(関連記事:携帯端末へのMIMO採用可能に、米社がメタマテリアル・アンテナ実用化)。
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