CEOのFiennes氏は、Electric Impが手掛けるIoT事業の構想をひらめいた当時のことを次のように話す。それは同氏が、バスルームの照明器具を、「例えば“Googleの株価”のような、任意の情報入力に応答させるようにできないかと考えていた」時だったという。当時、既に数多くの企業がZigBeeをはじめとするさまざまな無線通信規格をベースにしたホームオートメーションシステムを市場に提供していた。しかし同氏は、それらのほとんどは単一のベンダーが独自に提供するソリューションであり、オープンプラットフォーム化されていないことに気付いた。しかも、いずれも導入コストが極めて高かった。
Fiennes氏は1つの例として、「無線LAN機能を内蔵した体重計で、計測した体重のデータをWebサイトに送信して追跡管理できるモデルがあるが、その値段は180米ドルもする」と説明する。
そこでElectic Impは、無線LANの通信規格と、SDメモリーカードソケットの物理形状規格という、それぞれ標準化されて広く普及している2つの規格を組み合わせて活用するアプローチをとることにした。さらに、このメモリカード型無線LANノードを搭載する機器の開発企業にとっても、コスト削減につながるような工夫を施した。Fiennes氏は、このアプローチによって、IoT対応機器の市場が急速に立ち上がることを期待しているという。
Fiennes氏は、「ユーザーが自分で取り付けられるモジュールに(IoT対応機能を)まとめた。ユーザーは当社のメモリカード型ノードを購入し、手持ちの機器のメモリカードスロットに差し込むだけでよい。一方で機器メーカーは、自社の機器にメモリカード用のソケットを搭載し、Atmel(マイコンなど手掛ける米国の半導体ベンダー)が提供する3端子のIDチップを内蔵しておくだけだ。それに掛るコストは、IDチップが30米セント、ソケットが45米セントであるため、合計75米セントで済む」と述べる。また同氏は、3.3Vの電源電圧が必要になることについては、「インターネット経由で管理することになる対象物は、ほとんどが電子機器であることから、妥当だと考えている」と述べた。もし3.3Vの電源電圧が用意されていないモノにこのカード型ノードを適用する場合は、電池を搭載すればよいと同氏は言う。
さらに同氏によると、Electric ImpのIoT対応メモリカード型無線LANノードは米国のFCC(Federal Communications Commission、米連邦通信委員会)と欧州のCEの両方から認証を取得済みであり、そのカードを機器に取り付けるのはエンドユーザー自身になるため、機器の開発メーカーがこれらの認証について心配する必要がないという。
ただし機器メーカーは、機器の「どんな機能をこのIoT対応メモリカードで制御すべきか」を熟考する必要がある。Electric Impのメモリカードは6端子のインタフェースを備えており、リレーのオン/オフのような単純な2値制御のみならず、さまざまな制御やデータのやりとりが可能だ。PWM(パルス幅変調)信号を扱ったり、I2CインタフェースやSPIインタフェースにも対応したりでき、データの転送や読み取りの他、コマンドを送信することもできる。
Electric Impのメモリカード型は、Fiennes氏がAppleで完成させた多彩な機能を備える。0.35mmの4層プリント基板を用いて超小型のモジュールにまとめており、ARMのプロセッサコア「Cortex-M3」を集積するSTMicroelectronics製の32ビットマイコンと、Broadcomの無線LANチップを採用している。通信可能距離については、「スマートフォンやタブレットよりも大幅に優れている」(同氏)と主張する。このメモリカード型ノードの消費電流は、スリープモード時は6μAだという。
さらにカードの端部には、ステータス表示用のLEDと、光伝送用の光検出器も内蔵した。この光検出器は、無線LAN対応機器に求められるネットワークセキュリティ用のSSID(サービスセット識別子)とパスワードを受け取る手段として使う。Electric Impが採用した方式はこうだ。スマートフォン上でネットワーク名を選択してからパスワードを入力すると、アプリがその情報を元にスマートフォンの画面を点滅させて、メモリカード側にデジタル情報を光伝送する仕組みである。Fiennes氏は、このプログラミングシステムをアプリのベンダー各社にライセンス供与する考えだ。iOSとAndroidの両方に対応する計画で、ベンダー各社は独自のアプリにこの光伝送機能を実装できるようになるという。
このメモリカードを機器のメモリスロットに挿入して電源を投入すると、そのカードはID番号を見つけてElectric Impのサーバに自動的に情報を送る。同社はこのカードに独自の組み込みOSを搭載しており、そのOS上で稼働する仮想マシンがインターネット経由でそれ自体のアップデートを見つけ出す仕組みも実装済みだ。インターネットを介したデータ転送では、SSLによる暗号化でデータのセキュリティを確保している。
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