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まずはバッターボックスに立たせる! 若手のやる気を引き出す秘訣いまどきエンジニアの育て方(6)(1/2 ページ)

若手エンジニアの自発性を引き出すには、叱ることも1つの方法ですが、達成感や成長感を体験させることも大切です。彼らは、いわば“バッターボックスに入る前の野球選手”。バッターボックスまでいかにうまく誘導するか、それがベテランの腕の見せどころでもあるのです。

» 2012年07月03日 09時25分 公開
[世古雅人,カレンコンサルティング]

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 前回、「教わっていないので、できません」と堂々と言い放った佐々木さん。いまどきエンジニアは叱られることに慣れていないと田中課長も耳にしているものの、さすがに堪忍袋の緒が切れて、「エンジニアであれば自ら勉強するものだ」と叱ります。

 田中課長は、佐々木さんが成長するためには、自ら学ぼうとする姿勢、すなわち自発性が欠かせないと考えています。早速、良きアドバイザーであるマーケティング部の松田課長に相談しました。

好奇心をくすぐる?

松田

うんうん、なるほどね。上司の思いはなかなか伝わらないものですねぇ。


田中

そんな気楽なことを言わないでくれ。


松田

開発に直接関わる知識や勉強は重要ですが、好奇心をくすぐることも大事ですよ。間接的に設計につながりますからね。


田中

間接的に設計につながる?


松田

佐々木さんと同期でハード開発2課の加藤さんはしょっちゅう、製造現場に顔を出してますよ。


田中

それがどう関係するんだい?


 田中課長には、松田課長が言ったことがいまいちピンときていません。

自発性は「内発的モチベーション」から生まれる

 自発性を引き出すためとはいえ、上司がやってはいけないことの1つに「外発的動機づけ」があります。これは、昇給や昇進など“目に見える報酬”を餌にするものです。このように“目の前にぶら下げたニンジン”から生まれるやる気は一過性のものであり、長続きはしません。

 自発性とは、他人から言われなくとも自ら動くことです。したがって、「外発的動機づけ」とは正反対の「内発的モチベーション」から生まれます。「内発的モチベーション」には、達成感や成長感、自己実現などがあります。その報酬は外から受け取るものではなく、自分自身の中から湧き出るものです。「褒められた、認められたから頑張ろう」とか、「分からないところは徹底的に勉強して身につけよう」という気持ちを持てることが、自発性につながる目に見えない精神的報酬なのです。

 また、心理学では、時間が過ぎることを忘れるほど何かに集中している状態を「フロー状態」と呼びますが、これも内発的モチベーションの一種です。自分が大好きなことに没頭していると、あっという間に時間が過ぎて、疲れすら感じない。そんな経験はありませんか。

まずはバッターボックスに立たせる

 達成感や成長感は、いったん何かをやり遂げてみないと経験できないものです。佐々木さんは、達成感・成長感を得る以前の状態、野球のバッターに例えるならば、まだバッターボックスにも立っていない状態です。バットを振るためには、バッターボックスに立たなければなりません。しかし、本人がバッターボックスに立とうとしないので、いつまでたっても内発的モチベーションは得られないのです。内発的モチベーションがなければ、自発性は生まれません。

 そこで、まずはバッターボックスに立たせることに専念して、遠回りな方法でもいいので本人の好奇心をあおり、どうすれば「フロー状態」に近づけるか、ということを考えます。先ほど、松田課長が「好奇心をくすぐることは、間接的に設計につながる」と言っていましたが、それと同義です。同時に、達成感や成長感を得られる、あるいは褒められたり認められたりする場面を仕掛けていくことも必要です。

間接的に設計につながる好奇心を持たせる

 ここで示す好奇心は、開発内容はもちろん、人によって千差万別です。誰にでも当てはまるものではないことを、あらかじめお伝えしておきます。

 開発第2課の加藤さんが製造現場に通う理由は2つありました。

 1つ目は、製造の人がどのように自分が設計した製品を作り上げているかを観察するためです。例えば、回路図上では単に記号と記号を結ぶ線でしかないものを、実際にケーブルで配線を引き回すとしましょう。製造のベテランであれば2次元の回路図から、3次元の実装や引き回しまでイメージできます。ケーブルの引き回しが長くなると、途中でノイズを拾いやすくなり誤動作の原因になるということも、容易に理解できるはずです。しかし、若手は図面から製造工程をすぐにイメージできません。設計者がそれを踏まえて、製造しやすい設計を行い、誤動作しにくいケーブルの引き回しの製造指示ができるようになるためには、製造工程を観察することは重要です。

 2つ目は、製造現場の担当者からも、「この設計はいいねぇ、配線がやりやすいし、性能のばらつきも少ない」などの声が聞けることです。直接、お客様から感謝の声を聞くことが少ないエンジニアにとって、たとえ社内の人間であろうと褒められるのは嬉しいものです。

 このように、上司が若手に開発の後工程を見せたり現場の人間と話をさせたりすることは、設計に役立つのはもちろん、褒められる場面を意図的に設けるという意味でかなり効果があります。若手が、本人に対する期待値をくみ取ってくれたり、頑張れる理由を見いだしてくれたりすれば、しめたものです。ただし、相手が新人であろうと容赦なく“ダメ出し”してくる製造現場もあるので、そこは上司がコントロールしてください。

 また、開発の前工程である企画やマーケティングの段階にも、開発エンジニアを積極的に関わらせるようにすれば、製品への愛着やプロジェクトチームの一体感を醸成する効果が期待できます。実際に、そうした開発プロセスをとる会社も増えてきています。こちらについては、本連載のもう少し後の回で紹介する予定です。

 さて、田中課長はようやく松田課長が言った意味が分かったようです。話はまだ続きます。

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