製造現場に限らず、当社にはそれぞれの部門で一目置かれるエンジニアっているじゃないですか。そういう人と新人、若手の橋渡しをしてあげるといいですよ。
そう言えば、僕も新人の頃に「各部門のトップエンジニアを覚えておけ!」って言われたことがあったなぁ。
職場ぐるみのOJTの回でお話ししましたが、今や1つの部門内だけで広範な技術内容を全てカバーするのは困難です。
高周波技術1つをとっても、無線LANで利用する技術やデバイスと、佐々木さんが未経験だと言っていた高速CPUの配線・実装技術とデバイスは、例えば周波数が同じ2.4GHzであっても、振る舞いや設計の注意点が全く異なります。しかし、そうはいっても高周波であることに違いはありません。Sパラメータやストリップラインが設計できて、シミュレーションツールとVNA(ベクトルネットワークアナライザ)もバリバリに使いこなす。その上、顕微鏡をのぞいてチップ部品をピンセットで挟みながら空中ハンダ付けを行い、さらにはハンダのノリの具合から周波数特性までイメージできる……。そんな技術を持つトップエンジニアは、そう多くは存在しません。
さほど差がない、あるいは頑張れば何とか追いつくレベルのエンジニアに対しては、ライバル心が生まれるかもしれませんが、圧倒的なレベルを持つトップエンジニアに対して抱く気持ちは憧れに近いものでしょう。この数少ない一部のトップエンジニアに対する憧れは、“あのようになりたい”と自己実現を図るモチベーションになります。
社内のトップエンジニアと若手エンジニアの仲人役を務めることもベテランの重要な役割です。若手が彼らから受けるプラスの影響は計り知れないものなのです。
限られた文面で全てを書くことはできませんが、自発性を生むための内発的モチベーションを若手から引き出すために、上司や先輩の皆さんは以下のような行動を取るよう心がけてください。
・開発の面白さを直接的、または間接的に教え、知的好奇心・探求心を引き出す
・部門間の橋渡しとなる
さらに、開発という仕事には創意工夫が欠かせません。仮に上司が若手に教える場面でも、全てを教えるのではなく、“出し惜しみ”しましょう。つい、あれこれ言いたくなるものですが、じっと辛抱してください。考えるときは、最初は若手に1人で考えさせ、その後上司自らも一緒に考える。そういうステップを踏むことが大切です。
・答えは教えず、方向性を示すこと
・若手に考えさせること(=考えさせることで創意工夫、知恵を生み出す)
・やらせるのではなく、上司も一緒に考えること
一度は佐々木さんを叱った田中課長ですが、自らのマネジメントスタイルも見直さないといけないなと反省しています。
しばらくすると、佐々木さんも、何かと楽しそうに製造現場に顔を出すようになりました。また、高周波設計の社内トップエンジニアのすごさを目の当たりにしたことで、入社の時に秘めていた熱い思いも再認識したようです。
さて、次回は「できるエンジニアの行動」についてお話します。
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者として、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱している。2010年11月に技術評論社より『上流モデリングによる業務改善手法入門』を出版。
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