GaNパワー半導体の開発を進めている企業はSiCパワー半導体の場合と比較すれば少ないものの、米Efficient Power Conversion(EPC、関連記事)や米International Rectifier、STMicroelectronics、米Transphorm(関連記事)、サンケン電気、富士通(関連記事)、パウデック(関連記事)、パナソニック(関連記事)、ロームなどが開発を進めている。この他、産業技術総合研究所*2)や、古河電気工業と富士電機アドバンストテクノロジーが設立した次世代パワーデバイス研究組合*3)が成果を発表している。
*2) 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はパナソニックと名古屋大学、産業技術総合研究所に「インバータ高効率化のためのGaN双方向スイッチの研究開発」(2008〜2011年に実施)を委託した。ここでは、パナソニックが開発した「GIT構造」を利用したAlGaN/GaNのHEMT構造を応用発展させる開発が3者の協力で進んだ。GIT構造においては、ゲートの直下にp型のAlGaNを形成し、ゲート直下のチャネル部の電位を持ち上げて電子を枯渇、ノーマリーオフ動作を実現する。
*3) 同研究組合では、AlGaN/GaNのHEMT構造とGaN MOSFET構造を組み合わせた「GaN Hybrid MOS-HFET」と呼ぶ構造を利用して、2次元電子ガスの有効利用とノーマリーオフ動作を両立させている。耐圧は1.71kWを上回るという。
インターナショナル・レクティファイアー・ジャパン(IRジャパン)は、既に耐圧30V以下の領域でGaNパワー半導体の出荷を開始している(関連記事)。GaNパワー半導体の製品化では最も先行しているといえるだろう。
GaNのスイッチング性能の高さをうたう(図2)他、高い変換効率を訴求する。300Vを入力し、30Vを出力するDC-DCコンバータをスイッチング周波数400kHzで動作させた場合、Siだけで構成した回路と比較して、10%負荷の場合17ポイント、定格負荷では3ポイント効率が高いという。
2012年7月には耐圧600Vの試作品を用いた電源ボードを初めて公開した。スイッチング素子はGaN HEMTとSi MOSFETをカスコード接続し、1パッケージ化したもの。同社はSiパワー半導体では実現不可能な領域からGaNパワー半導体を採用していく方針である。
カスコード接続を用いると、確立した既存の技術だけでGaN HEMTをノーマリーオフ化できる。ユーザーは、ノーマリーオフ動作をするチップとしてGaN HEMTを扱うことができる。これがメリットだ。一方、ノーマリーオフ動作を実現するために2つのトランジスタが必要になることや、GaN HEMTが単体で実現できる最高性能(スイッチング周波数)をカスコード接続では発揮できないという主張もある。
STMicroelectronicsは、2010年10月から42カ月(3年半)の予定で、高効率高信頼性GaNデバイスの開発を開始している*4)。LAST POWER(Large Area silicon carbide Substrates and heTeroepitaxial GaN for POWER device applications)と呼ぶこの計画では、GaNウエハーを製造するスウェーデンAcreoなど欧州の14企業と組み、150mmのSiウエハーを利用して、HEMT構造のGaNデバイスを開発する。
*4) 同社はGaNの前に、SiCパワー半導体の開発を先行させており、2012年第4四半期には1200V耐圧のSiC MOSFETを製品化する予定だ。1200V耐圧のIGBTと比較してダイの面積を64%低減できる見込みだという。
同社によれば、耐圧650Vで15A品と200A品を狙う。同じ耐圧のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と比較すると、損失を40%低減できる見込みだという。
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