軽くて長持ちする電池が携帯型機器には必須である。そのような機器にはリチウムイオン二次電池が欠かせないが、小型軽量の燃料電池と組み合わせることで、さらに利便性が増す。燃料電池を小型軽量化する技術を紹介する。
スマートフォンやタブレットなど携帯型機器の「命」は電池だと言ってもよいだろう。電池が切れた機器は何の役にも立たない。消費電力が低いプロセッサを採用し、省電力に工夫を凝らしたシステムを設計したとしても、電池の重要性は変わらない。小型軽量でありながらなるべく容量が大きな電池が必要だ。
このような条件を満たす電池の候補は、既に広く使われているリチウムイオン二次電池と、「燃料電池」*1)である。
*1) 燃料電池とは、水素と酸素をゆっくりと反応させることで、電子の流れ(電流)と水を生み出す装置をいう。1960年代のNASAジェミニ宇宙計画で商用化された。外部から水素を与えると発電する点は、軽油や重油で発電するディーゼル発電機と一見似ている。だが、燃料電池ではガス状の水素が炎をあげて燃焼することはなく、水素を「分解」して得られた水素イオン(プロトン)を酸素と反応させる方式が主流だ。従って機械的な可動部がなく、騒音も生じない。なお、燃料としてメタノールや都市ガスを使う燃料電池もあるが、電力の取り出しに役立つ主な反応は水素と酸素の化合だといえる。
マグネシウムが変えるか、日本のエネルギー問題
本記事ではカルシウムを利用した燃料電池の実用化について触れた。だが、燃料電池の候補となる金属はカルシウムだけではない。アルミニウムやマグネシウムにも可能性がある。「マグネシウムが変えるか、日本のエネルギー問題」では、有望だがこれまでは燃料電池には向かないとされてきたマグネシウムの突破口について触れた。
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なぜ燃料電池なのだろうか。リチウムイオン二次電池と燃料電池が互いに補い合うことで携帯型機器の利便性が高まるからだ。リチウムイオン二次電池は、容量がゼロになった場合、商用電源に接続し、ある程度の時間をかけて充電しなければならない。あらかじめ充電した予備電池を持ち歩くこともできるが、2個、3個と数が増えるに従ってかさばり、重くなる。
燃料電池が優れているのは、電力ではなく、何らかの「燃料」を追加・交換すればいつまでも動き続けることだ。充電用の電気を持ち運ぶことはできないが、燃料なら携行しやすい。充電には時間がかかるが、燃料電池の燃料交換に要する時間は無視できるほど短い。
燃料電池技術はさまざまな用途に使われている。最も有名なのは家庭用の「エネファーム」だろう。都市ガスから水素を得て、水素を固体高分子形燃料電池(PEFC)や固体酸化物形燃料電池(SOFC)に通じることで電力を生み出す(関連記事:電気料金値上げに「対抗」するには)。ただし、エネファームは家庭用の「給湯装置+発電機」という位置付けの製品であり、据え置き型だ。例えば出力が250〜700Wの燃料電池ユニットの重量は約100kgである。これでは携帯型機器には使えない。
ただし、「燃料電池=大型機器」という等式は成り立たない。エネファームにも使われているPEFC方式は、そもそも燃料電池の中でも最も小型化に向く。内部構造を単純化できることが理由の1つ。加えて、90℃前後で動作するため、発電開始に際して加熱用の補機などが必要ないからだ。
アクアフェアリー*2)と京都大学、ロームは、2012年9月18日、小型軽量なことを特長とする複数の燃料電池を開発したと発表した。最も小さいものは、燃料電池本体が50gと軽い。燃料などが入った使い捨てのカートリッジは23gである(図1、図2)。
*2) アクアフェアリーは、2006年設立の燃料電池に特化したベンチャー企業。京大桂ベンチャープラザ内に本社を置く。
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