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ガム1枚でスマホが満腹、つぶつぶカルシウムが効くエネルギー技術 燃料電池(2/5 ページ)

» 2012年09月20日 13時40分 公開
[畑陽一郎,EE Times Japan]

どのような特長があるのか

 「いかに軽量な燃料電池に仕上げるかに腐心した」(アクアフェアリーで取締役副社長兼CTOを務める石坂整氏)。

 「(写真の女性が手に持つ)チューインガムのような形状の水素発生シート(3g、2.9cm3)を1枚使うだけで、標準的なスマートフォンをフル充電できる」(ローム研究開発本部で副本部長を務める神澤公氏)。

 「今回の技術は5つの『L』が特長である。大容量(Large capacity)、長寿命(Long term lifetime/safety)、軽量(Light weight)、低環境負荷(Light load to environmental condition)だ。低環境負荷とは、燃焼時に二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)が発生せず、燃焼後には水と人体に無害な無機物しか生じないことを意味する」(京都大学大学院工学研究科教授で、京都市イノベーションセンターのセンター長を務める平尾一之氏)。

 アクアフェアリーが燃料電池の開発を手掛け、京都大学が次世代の固体水素源の開発や、廃熱を利用した還元処理など水素発生剤のリサイクル研究を、ロームが燃料電池の電源制御回路技術やアプリケーション開発、販売を担当した。

水素源が最も重要

 小型軽量の燃料電池を開発しようとした場合、2つの技術開発課題がある。燃料となる水素*3)を確保する技術と、水素と酸素を反応させる燃料電池セルの小型化だ。

*3) 燃料に水素ではなく、常温で液体のメタノールを用いるDMFC(Direct Methanol Fuel Cell)方式を採用することでも小型化は可能だ(関連記事:東芝がメタノール型燃料電池を開発、燃料電池ケータイも視野に)。ただし、メタノール濃度によってはエネルギー密度が下がる他、反応途中で生成する一酸化炭素(CO)を高効率に酸化する触媒が必要になるなどの課題がある。

 水素は常温ではガスであり、そのまま持ち運ぶことは困難だ。燃料電池車(FCV)では高圧のガスタンクを用いるが、携帯型ではタンクは無理だ。水素を内部に取り込む性質がある水素吸蔵合金を使ったとしても小型軽量化は難しい。

 アクアフェアリーは水素を軽金属と水素の化合物として運ぶことを考えた。水素化マグネシウム(MgH2)や水素化カルシウム(CaH2*4)は軽量で固体の物質であり、水を加えるだけで水素を取り出すことができる。例えば水素化カルシウムなら、3gで5Whの電力量が得られる。1回でスマートフォンを満充電できる量だ。図1にある水素発生シートは水素化カルシウムが主な成分である。

*4) 水素化カルシウムは第二次大戦以前から知られている化学物質であり、合成もたやすい。しかし、現時点では有機合成の際の乾燥剤程度しか用途がなかった。

 アクアフェアリーは、2006年7月にNTTドコモと共同で、携帯電話機用としては当時最も小型の燃料電池(PEFC方式)を試作し、動作検証にも成功している。「当時は水素源として水素化マグネシウムを利用していた。水素化マグネシウムは、いわば第一世代の水素源だと考えている。なぜなら、低温では反応性に乏しく、高温では暴走の危険性があるなど、制御が難しい材料だからだ」(アクアフェアリーの石坂氏)。

 今回は水素源をどのように改善したのだろうか。「水素源を水素化カルシウムに変えた。水素化カルシウムは水素化マグネシウムよりも反応性が高く、一見使いにくい材料に思える。だが、実際には反応を抑制する手法だけを盛り込めば実用化できることが分かった」(石坂氏)*5)

*5) 同社は水素発生と制御の技術開発に特化している。水素化カルシウム原料は外部から調達しており、燃料電池セルの電極などの部材も他社から購入している。燃料電池セル自体の方式(PEFC)についても従来と変わらない。

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